こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

岳 -ガク-

otello2011-05-11

岳 -ガク-

ポイント ★★*
監督 片山 修
出演 小栗旬/長澤まさみ/佐々木蔵之介/石田卓也/矢柴俊博/やべきょうすけ/浜田学/鈴之助
ナンバー 111
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


足元に広がる白銀の稜線を見下ろし峻嶮な頂に立つ主人公の表情は、登頂する喜びを与えてくれた山へ、好天を恵んでくれた太陽へ、エネルギーとなる食事を作ってくれた山荘のおばさんへ、そして自分が関わってきた人々への感謝であふれている。そこにあるのは生きていることへの感動。映画は山岳救助ボランティアの青年と新人レスキュー隊員の交流を通じ、山と自然の厳しさと命の大切さを訴える。宇宙を感じさせるほど透き通った青空を背景に、足跡一つない新雪の上を駆ける主人公の姿が神々しいまでに美しい。


長野県の山岳救助隊に配属された久美は、初出勤の日にいきなり遭難者救助に出動、三歩の存在を知る。三歩は山を知り尽くし、救助隊の手に余る遭難者を次々と単独で救出していく。ある日、三歩は父を滑落事故で亡くした少年と知り合い、仲良くなる。


常に笑顔を絶やさず、無謀な登山者にも「ありがとう」と言って決して怒らない三歩は、1人でも多くの人に山へ登ってもらいたいという願いを満面から発散させている。そんな三歩を久美は「死に慣れ過ぎている」と非難するが、三歩は軽く受け流す。遭難者の遺体に「よくがんばった」と声をかける一方で崖下に投げ捨てる、その死に対する割り切りが三歩の生存へ意識の強さを明確にする。だが、このあたりの三歩の邪心のなさに加えて超人的な肉体と精神は、もはや神の領域に達し、彼の無垢な魂があまりにも立派すぎて、かえって近寄りがたい雰囲気を纏ってしまっている。もう少し人間的な苦悩やトラウマを描いていればキャラクターに深みが出たはずだ。


◆以下 結末に触れています◆


軽装・スニーカーのハイキング気分の登山者に久美は毅然とした態度を取るが、三歩はこんな山を甘く見ているオッサンでも歓迎する。しかしそれは、身の危険を顧みず救命活動に励むレスキュー隊員に失礼ではないか。すべての登山者に、山への敬意や畏怖の念も植え付けてこそ、山を愛する気持ちがきちんと伝わると思うのだが。。。