こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

スペイン一家監禁事件

otello2011-05-20

スペイン一家監禁事件 SECUESTRADOS

ポイント ★★*
監督 ミゲル・アンヘラ・ヴィヴァス
出演 フェルナンド・カヨ/マニュエラ・ヴェレ/アナ・ヴァジュネール/ギレルモ・バリエントス
ナンバー 119
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


左右2分割されたスクリーン上でそれぞれ、父は強盗に脅されながら運転し、娘はレイプ魔に追われている。違う場所で同時進行で起きている出来事、やがて父が娘の待つ家に帰ってきたとき、別々に彼らをとらえているフレームは徐々に近づき、父娘が抱き合った瞬間ひとつの画面に統合される。暴力と血にまみれ、希望も救いも次々と消されていく展開の中、唯一見入ってしまうシーンだ。映画は強盗に狙われた平和な家庭が直面する悪夢のような体験をリアルに再現し、通信手段を失った人間が味わう無力感と絶望を見事に表現している。


郊外の豪邸に引っ越してきたハイメと妻・マルタ、娘・イサ一家のもとに、夜、3人の男たちが押し入る。リーダー格の男はハイメを連れ出してCDからカネを引き出させる一方、リビングに残されたマルタとイサは粗暴な男にいたぶられる。


シャワーから湯が出ない、ケータイが圏外、家族で食事の予定なのにイサがボーイフレンドと出掛けるetc.…。日常の些事に怒ったり愚痴ったりするマルタとイサの機嫌を必死で取るハイメ。そんなありふれた時間が一瞬にして死の恐怖という非日常に変わってしまう運命の暗転。さらに外部から孤立した状態で、犯人たちは焦ることなく親娘の命をもてあそぶ。それはまるで成功して財産を築いた者たちに復讐しているかのごとき残酷な手口だ。母を痛めつけると娘を脅迫し、娘を犯すと母を屈服させる。そして彼女たちを自ら進んで服従させる狡猾さは“持たざる者”の“持てる者”に対する憎悪すら感じさせる。


◆以下 結末に触れています◆


強盗たちはイサを訪ねてきたボーイフレンドや様子を見に来た警備員に危害を加えるが、最初から一家を殺すつもりだったのかと勘繰れるほど手際が悪いのは、彼らがアルバニア人で、金品を奪ったらすぐに国外に逃亡するつもりだったからだろう。泥棒としての美学も哲学もないゴロツキ集団。物語はEUの拡大で紛争地域から銃の扱いに長けた民兵崩れが大量に欧州に流入してきた現実が背景になっている。そこには決して他人事とは思えない切迫感があった。