こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

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otello2011-05-30

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ポイント ★★★★
監督 山下敦弘
出演 妻夫木聡/松山ケンイチ/忽那汐里/石橋杏奈/中村蒼/韓英恵/長塚圭史
ナンバー 128
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「泣く男は男じゃない」、そういってアメリカン・ニューシネマのアンチヒーローたちの涙を否定する若きジャーナリストは学生運動家にのめり込み、“歴史の目撃者”になろうとしている。一方、革命家を気取る学生は、社会を変えるのが使命と考えているが、明確なビジョンを持っているわけではない。物語はそんな、他の者ではない何者かになりたい2人が出会い、己を取り巻く世界と格闘しながら自分とは何かを問い続け、答えを探してもがき苦しむ姿を描く。その過程で、三島由紀夫の自決を崇高な理念と奉じる彼らの理想ですら、現代の目から振り返れば壮大な自己満足に過ぎなかったことがシニカルに語られる。いや、まだ目指すべきイデオロギーや行動するエネルギーがあっただけマシなのか?


週刊誌編集部に配属された沢田は梅山と名乗る学生運動家から情報提供を受け、記事を書く。その後も何度かコンタクトをとるうちにすっかり梅山のペースに乗せられた沢田は、彼が打ち明けた自衛隊襲撃が実行に移されたと知らされ、殺された自衛官の腕章を預かってしまう。


大学解体を叫びながら大学生の身分を捨てようとしない大学生、「道楽や、革命なんて」と吐き捨てる全共闘の指導者。当時の学生運動など暴走族の反社会的行為と根は変わらず、その証拠に根性を見せるためにより過激になっていく。行きつく先は殺人。梅山は自衛官殺しを階級闘争だと理論をすり替えようとするが、もはやだれも同意する者はなく、奇妙な友情を感じている沢田のみが彼を守ろうとする。学生運動が権力によってではなく、自壊によって終息していく様子がリアルに再現されていた。


◆以下 結末に触れています◆


焼き鳥屋でフーテン取材時代の仲間と再会した沢田は、今は妻子と地道に生きている彼を見て、胸にこみ上げるものをこらえきれなくなる。それは結局何もなしえなかった敗北感と、それでも打ち込めるものがあった過去への憧憬が入り混じった複雑な思い。青春の情熱と挫折、「男の涙」を嫌っていた沢田の涙は、ヒリヒリするほどの切なさに満ちていた。