こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

プリンセス トヨトミ

otello2011-05-31

プリンセス トヨトミ


ポイント ★★★
監督 鈴木雅之
出演 堤真一/綾瀬はるか/岡田将生/沢木ルカ/森永悠希/和久井映見/中井貴一
ナンバー 128
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


一見普通なのにどこかおかしい。それは背中に視線を感じるが振り返ると誰もいないという、言葉にできない気持ち悪い感触。慣れない土地で覚える居心地の悪さをみごとに映像化している。そんな「大阪中が口裏を合わせている」ような、公然の秘密を自分だけが知らない不安と緊張がスクリーンからにじみだし、見慣れた大阪の街が異次元空間のように思えてくるほど不気味なリアリティを伴う演出にのめり込んでしまう。さらに歴史から隠ぺいされた出来事をを人知れず守る人々の存在が、「ダ・ヴィンチ・コード」風のミステリアスな知的興奮を刺激する。映画は、大坂夏の陣を生き延びた豊臣家の子孫が現代にまで血脈を保ち、使命を帯びた人々が命がけで彼女を守るストーリーの中で、父と子の絆を描く。


会計検査院の松平、鳥居、旭の3人は大阪出張でOJOと名付けられた怪しげな組織を監査、不審な点を追求するうちに、大阪は明治政府によって認められた独立国だった事実を教えられる。そして、お好み焼屋・真田のひとり息子・大輔の幼なじみ・チャコこそが秀吉の血を引く末裔であるのが明らかになる。


新世界、道頓堀、空堀商店街、府庁大阪城。大阪の街とそこに住む人々をディテール豊かな活写のおかげで、この壮大なほら話がリアルに見えてくる。また、大阪国総理大臣を名乗る真田がすべての鍵を握る人物なのだが、普段はお好みを焼いているおっちゃんの設定がいかにも“仮の姿”ぽい。やがて、松平は権限を盾に国からの交付金を断とうとし、鳥居がチャコを勝手に保護、誘拐されたと勘違いした真田がついに行動を起こす。その際も、秀吉の馬印・瓢箪が暗号代わりに使われるなど、大阪人の「太閤さん」への尊敬やこだわりの視覚化には親しみさえわいてくる。


◆以下 結末に触れています◆


決起した大阪国民はあらゆる日常を投げ出し府庁前に集合する。ところが、そこから先にどうするのか行動目標があるわけでもなく、ただ、真田と松平の公開討論を見守るばかり。その過程で、松平はケンカ別れしたまま死んでしまった父が最期に伝えたかったことに思い当たる。このあたり、少し物語のテンポが落ちるのが残念だった。まあ、国松を逃がしたのは松平の祖先だったオチには思わず膝を打ったが。。。