こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

クロエ

otello2011-06-01

クロエ CHLOE

ポイント ★★*
監督 アトム・エゴヤン
出演 ジュリアン・ムーア/リーアム・ニーソン/アマンダ・セイフライド/マックス・シエリオット
ナンバー 130
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


夫は年齢を重ねても魅力的になっていくのに、自分の容姿は日々衰えていく。女としての自信をなくし、夫とのセックスさえ拒むようになった妻は更年期を迎えますます不安定になっていく。そんな彼女のわずかな疑念が疑惑に成長し、やがて確信へと変化していく過程は緊張感たっぷり。映画は高級娼婦に夫の身辺調査を頼んだ女が、その顛末を知らされていくうちに妄想の度を深め、狂気の寸前まで追い込まれていく姿を描く。女性の体を知り尽くした産婦人科医でありながら、自らの肉体と精神の変調には冷静に対応できない設定は皮肉が効いている。


出張中の夫・デビッドの帰りを待つキャサリンは、その夜彼が戻らなずショックを受け浮気を疑う。キャサリンは娼婦のクロエにデビッドを誘惑するように依頼、クロエはデビッドとの密会の一部始終をキャサリンに話す。


“客の求める女を演じるのが娼婦”と心得ているクロエはデビッドに近づき、すぐに肉体関係になったとキャサリンに報告する。デビッドとのセックスの感触は、キャサリンがいちばん欲しているにもかかわらずいまや手に入らないもの。2人の親密な行為のディテールをキャサリンは耳をふさぎたくなる気持ちで聞きつつも、もっと詳しく知りたいとも思っている。この複雑にねじれた感情を、ジュリアン・ムーアは繊細な表情の動きで見事に表現し、映像のテンションをスリラーの域にまで高めていく。


◆以下 結末に触れています◆


精神的に追い詰められたキャサリンは直接デビッドに不貞の真偽を確かめるが、デビッドは頑なに否定する。要するにクロエは、娼婦の心得のとおりキャサリンの望む女を演じたのだ。ここで終わらせておけば、もう若くない女の心身を襲う不定愁訴のリアルな再現という物語に共感を得られたが、クロエがプロの規範から逸脱する行動に出たことで一気に話がややこしくなる。なにも無理矢理ホラー仕立てにしなくても、キャサリンの心に起きた出来事だけで十分に恐ろしかったが。。。