こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読

otello2011-06-08

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

ポイント ★★
監督 田中誠
出演 前田敦子/瀬戸康史/峯岸みなみ/池松壮亮/川口春奈/大泉洋
ナンバー 136
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


もちろん原作に沿ってストーリーが構築されているのは分かっている。しかし、元々荒唐無稽なホラ話の映像化、TVアニメならともかく実写にするには無理があった。ロクに捕球もできず練習もほとんどしない高校の野球部が、いくらその意識を180度転換したからといって甲子園に出られるほど野球は甘くない。せっかく映画にするのならば、原作にはなかった野球のリアリティにもっとこだわり、「地方予選のベスト16くらいの実力はあるが甲子園には届かない」レベルのチームにしていれば楽しめただろう。根本的に野球に対する“真摯さ”に欠けている作品だった。


程高野球部のマネージャーになったみなみは、全然やる気のない部員の前で「甲子園に連れて行きたい」と宣言するが、マネージャーの仕事を覚えるために手にした解説書はドラッカーの「マネジメント」だった。


「マネジメント」は野球ではなく経営学の本。みなみは書かれた言葉を自分なりに解釈して野球部にイノベーションを導入しようとする。試合での指針、部員・監督のモチベーション、練習法の見直し。それらは程高野球部だけでなく高校野球のセオリーを覆すものばかりで、秋に始まったチーム作りはわずか10カ月程度で劇的な変化をもたらす。そこには登場人物の人間性を深く掘り下げる試みはなく、“小説仕立ての実用書”風の原作スタイルを踏襲するのみ。これなら、原作を読んでいれば前田敦子ファン以外はわざわざ映画館に足を運ぶ必要がない。


◆以下 結末に触れています◆


イノベーション”という革命的兵器で武装した程高は、旧来の“努力・根性・チームワーク”型の強豪校を次々と撃破していく。だが、野球部監督が尊敬する、池田高の蔦監督・取手二高の木内監督といった高校野球界のイノベーターたちも基礎的な練習はきっちりとやっていたはず。あくまでもドラッカー流野球は横一線から抜け出すための特効薬、負から正を産むものではないのだ。