こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

127時間

otello2011-06-20

127時間 127HOURS

ポイント ★★★*
監督 ダニー・ボイル
出演 ジェームズ・フランコ
ナンバー 147
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


強靭な意志は時として人間に限界を超えた力を与えてくれる。身動きがままならない状況を独力で切り抜けなければならない。襲い来る渇きと空腹、痛みと絶望、映画は砂漠に取り残された主人公の壮絶な体験を客観視するとともに、彼の脳裏に浮かぶ楽しかった思い出とこれから歩むであろう未来を映像化していく。そこにあるのは生まれ、今まで生きてきたことへの感謝。明るい性格ではあるが、干渉を嫌い群れるのを潔しとしない彼が、自分の人生はひとりだけで生きてきたのではない、多くの人々と関わって生かされてきたのだと気付く。だからこそ絶対に生還するぞと己を鼓舞する姿は神々しさすら感じた。


キャニオントレイルが趣味のアーロンは単独行動中に谷底で落石に右手を挟まれる。何とか岩を動かそうとするがびくともしない。誰とも連絡が取れず、徐々に食料も水も体力も尽きていくなか、ビデオカメラに遺言めいたメッセージを残し始める。


鉄道の改札、スタジアムの群衆といった大都会の喧騒から離れて、人工物がほとんどない荒野にアーロンが自転車で飛び出す場面に切り替わる冒頭の変化が非常にスタイリッシュ。さらに女の子たちと地底湖にダイブするなど、生の喜びがダイナミックな躍動感を持って描かれる。一転して自由の利かなくなったアーロンが味わうのは生の苦痛と死の恐怖。谷底から助けを呼ぶアーロンをとらえたカメラが上空高く舞い上がり大地の裂け目を俯瞰するショットは、人間の存在の小ささと命のかけがえのなさを同時に表現する素晴らしいシーンだった。


◆以下 結末に触れています◆


もはや朦朧とする意識の中で、アーロンは脱出に残された最後の方法を実行に移す。過剰に分泌されるアドレナリンの中、感覚は鋭敏になり、その激痛は見る者にリアルに伝わる。アーロンが本当にすごいのは、現場に残した右手の写真をしっかり撮影するところ。こんなときでも、苦難を克服した証拠を残そうとする冒険者の心を失っていないのだ。決してあきらめない精神力と生命力、アーロンのサバイバルは人間の可能性を魂の物語にまで昇華していた。