こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マーガレットと素敵な何か

otello2011-06-23

マーガレットと素敵な何か L'age de raison

ポイント ★★★
監督 ヤン・サミュエル
出演 ソフィー・マルソー/マートン・ソーカス/ミシェル・デュショーソワ/ジョナサン・ザッカイ/エマニュエル・グリュンボルド
ナンバー 133
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


辛い現実に耐えるために無理やり封印した幼い日の夢。カラフルで形もさまざま、宝石みたいに輝いている。40歳になった今、キャリアは順調だが、忙しさのあまり他人を慮る時間さえ失くしている。そんな、貧しい暮らしから抜け出したい気持ちだけで全力疾走してきたヒロインが、30年以上前の自分からの手紙の指示を実践する過程は、築き上げてきたもモノと犠牲にしてきたものを比較し、選択するプロセス。映画は、彼女に、子供のころになりたかった大人になったのかと己に問いかけさせ、豊かな生き方とは何かを疑問を投げかける。切り絵絵本のような手紙と黒いスーツが象徴する現在の対比は、彼女がまったくの別人になったことを物語る。


プラント事業を推進するマーガレットの元に、故郷の田舎街の公証人が訪れ、古い手紙の束を置いていく。それは7歳の時のマーガレットが未来の自分宛てに綴った思い。その後も手紙が届けられるうちに、貧乏だったが家族や友達と一緒に過ごした幼い日々がよみがえってくる。


マーガレットは手紙を完全に忘れていないのに、意識の外に追いやろうとしている。マーガレットと名乗り始めて、マルグリットの名で過ごした少女期を捨てたと思い込んでいた彼女にとって、手紙など早く処分してしまいたいのに、一方で気になって仕方がない。本当はすべて覚えているはず、センチメンタルな過去を認めたくないだけなのだ。完璧なキャリアウーマンとしてのプライドが邪魔をして素直になれないマーガレットの姿が哀れで滑稽だった。


◆以下 結末に触れています◆


それでも、初恋の相手や音信不通だった弟と再会するうちに、彼女のわだかまりは徐々に氷解して行く。そして、純粋に夢想していられた時代の感情を思い出し、「君自身になれ」と言ったピカソの言葉を行動に移していく。恋人とふたり、陶器の皿を割るシーンは、マーガレットとしての彼女をたたき壊し、マルグリットにもう一度生まれ変わる儀式。人は心の声に耳を傾けてこそ幸せになれるという人生の真理をこの作品は教えてくれる。