こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ビューティフル

otello2011-06-27

ビューティフル BIUTIFUL

ポイント ★★★
監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
出演 ハビエル・バルデム/マリセル・アルバレス/エドゥアルド・フェルナンデス
ナンバー 154
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


世界は苦痛にあふれ、死の影が濃厚に付きまとう。意に沿わないハプニングでイライラが募るなか、それでも主人公は己が生きた証を残そうと、気力を振り絞って関わった人々のために奔走する。血尿、失禁、そして気を失うほどの痛み。もはや与えられた時間はあとわずか、彼が最期の時を有意義なものにしようとする過程は無様でみじめで薄汚く、むしろ意向とは逆の結果をもたらしたりする。物語はドラッグ・離婚・不法就労といった現代欧州が抱える社会問題を背景に、少しでも未来に希望をもたらそうとする男の姿を描く。


密入国者にヤミ仕事を斡旋しているウスバルは膀胱がんで余命2カ月を宣告される。2人の子の将来を心配し、別れた妻と撚りを戻すが情緒不安定な彼女は満足に子供の面倒を見られない。一方、ウスバルの不手際で警察がセネガル人を一斉摘発し、ひと組の家族を引き裂いてしまう。


力のない太陽、寒々とした空気、観光イメージとは正反対の冬のバルセロナ、その情景はそのままウスバルの心を象徴しているよう。朝目覚め、とりあえずまだ体が動くのを確認し、一日なんとか無事に過ごそうとするが、さまざまなトラブルがウスバルに降りかかる。彼は決して逃げずに対処に当たるが、状況を悪化させるばかりで決して解決には至らず、それどころか多くの人命を奪ってしまう。要するにハタ迷惑なひとり相撲を取っているのだが、映画はウスバルの苦悩を浮き彫りにすることで、思い通りにならい“人生”の真実に迫っていく。


◆以下 結末に触れています◆


父の遺体を墓から取り出したウスバルは、今の自分よりはるかに若くして他界した父のミイラの顔に触れる。もともとウスバルには死者の声を聞く能力が備わっているが、ミイラから感じた父の思いは、顔も知らない息子・ウスバルと他愛ない会話を交わすという願い。その父の形見である指輪を娘に譲り、来歴を語り終えてやっとウスバルの魂も安ぎを得る。我が子への思い、たったそれだけが伝えられれば人は悔いなく臨終を受け入れられる。そんなラストシーンは、“ビューティフル”のタイトルにふさわしい静謐と優しさに満ちていた。