こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ツリー・オブ・ライフ 

otello2011-07-02

ツリー・オブ・ライフ THE TREE OF LIFE


ポイント ★★★★*
監督 テレンス・マリック
出演 ブラッド・ピット/ショーン・ペン/ジェシカ・チャステイン
ナンバー 158
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


われわれは生きているのではない、生かされているのだ。両親の愛を一身に浴び、慈しみ育てられた幼年期、社会で勝ち残るための気構えを叩き込まれた少年期、それらの思い出は感謝に満たされてもう若くない男の胸によみがえる。だが、映画は人間の小さな営みだけでなく、聖なる光によって宇宙が誕生した瞬間にまでさかのぼり、星や銀河が形成され、周りを惑星が巡り、さらに地球上に生命の種がまかれ、原生生物から海棲生物を経て恐竜、やがて人類にまで進化する様子をリアルに再現する。そして揺らめく炎のような“神”からもたらされた現象の数々は、さまざまな過程を経てひとりの男に収束され、壮大で豊饒なイマジネーションは大いなる命の賛歌に昇華されていく。


1950年代の米国、地方の中流家庭に生まれたジャック。優しかった母、厳格だった父、ふたりの弟と遊んだ日々は幸せだった。数十年後、ビジネスマンとなったジャックの脳裏に幼少時代が浮かんでは消える。


世俗に染まるか神の恩寵を受けるか、ジャックの母は自らに問い、前者の典型である夫と暮らしながらも後者の生き方を選ぶ。彼女は魂の安らぎを得ようと全身で家族を大切にするが、夫は妻子を支配しようとするばかり。母はそれも神の意志と疑わず、どんな運命も甘んじて受け入れる。そんな父母をジャックは瞳に刻み込み、人生は思い通りにならないものだと教えられていく。


◆以下 結末に触れています◆


カメラは彼らの姿を散文的にスケッチしていくが、隅々にまで精密な美しさと静謐な躍動感が行きとどいたしっとりとした映像は、ストーリーを頭で理解するのではなく、心で感じ取ることを観客に要求する。悠久の時の流れの中で、人の一生など一瞬にすぎない。それでも一人一人の存在はかけがえなく、その思いは永遠に色あせない。テレンス・マリックは、宗教的な意味を超越した“神”のイメージを具体化し、すべての命は連綿と受け継がれ後世にリレーしていかなければならないという必要性を強烈に印象付ける。まさしく今までに見た記憶がない、ため息が漏れるほどの圧倒的な映像体験だった。