こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

犬飼さんちの犬

otello2011-07-14

犬飼さんちの犬


ポイント ★★*
監督 亀井亨
出演 小日向文世/ちはる/木南晴夏/池田鉄洋/徳永えり/でんでん/佐藤二朗/清水章吾
ナンバー 169
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


犬が大嫌いなのに犬を飼うはめになった犬飼さん。どんなクレームを付けられてもいつも笑顔を絶やさず、丸く収めようとしていた彼が、犬の世話を始めて少し変わる。別に人生から逃げていたわけではない、それでもなるべく波風を立てずに生きてきた彼が、愛犬を守るためにトラブルに立ち向かわなければならなくなり、強かさを身につけていく。カメラはソフトな味わいのタッチで、その過程を優しく見つめる。人懐こい大型犬の微笑んでいるような表情が可愛らしい。


離島のスーパーに単身赴任中の犬飼は、商品のクレーム処理に部下の鳥飼とともに東京に長期出張、久しぶりに家に帰ると留守中の家族は無断で犬を飼っている。犬が苦手だった犬飼は家族に説得され、サモンと名付けられた犬の散歩と餌やりをまかされる。


離島にいたころの犬飼はネット電話の前に朝食を並べ、離れていても家族と同じ時間に食事をする。妻子に懸命に話しかける場面が家族思いの彼の性格をよくあらわしている。そこに突然の帰宅。彼のいない間にいつしか妻も子供も己の知らない世界を持っている。その寂しさをうめようとサモンとの絆を大切にする犬飼の気持ちがとてもリアルだ。そしてサモンとの信頼関係を築くと、今度はサモンの親になった気分になり、サモンをバカにする太の飼い主やドッグランの管理人と喧嘩までする。それは犬飼にとって、新しい一歩であり進歩でもある。彼の、きちんとサモンと向き合う姿は、人間はいくつになっても成長できるということを教えてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


やがてすっかりサモンのパパとしての自覚ができた犬飼に再び離島に戻る辞令が出る。その前に生まれ育った実家に戻り、なぜ自分が犬を避けるようになったのか、幼い日の絵日記をひも解いて哀しい記憶をよみがえらせる。妻や子供に理解されたい、その家族を思いやる心が最後まで変わらない映画の姿勢が温かい。結局、犬飼はサモンを連れて島に単身戻るが、父の不在を埋めようと飼い始めた犬がいなくなった家族はどういう胸中なのだろうか。。。