こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ミケランジェロの暗号

otello2011-07-16

ミケランジェロの暗号 Mein Bester Feind

ポイント ★★★*
監督 ウォルフガング・ムルンベルガー
出演 モーリッツ・ブライプトロイ/ゲオルク・フリードリヒ/ウルズラ・シュトラウス/マルト・ケラー
ナンバー 168
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


圧倒的で理不尽なナチスの暴力の前で肩を落としてうなだれるユダヤ人といった構図は一切なく、知恵と機転で命の危機を生存のチャンスに変える主人公。彼の奇想天外な発想と驚きの行動力は時にスリリングで時にコミカルだ。映画は幻の名画を巡るユダヤ人画商とナチス親衛隊員の駆け引きを通じて、ホロコーストのか弱き犠牲者というステレオタイプではない第二次大戦中のユダヤ人像を描く。時代と共に2人の立場が幾度も反転するが、一方は心の強さを保ち続け、他方は欲望をむき出しにする。その両極端の人間性が絶妙の対比をなし、物語を底辺から際立たせている。


ミケランジェロの絵を隠し持つと噂されるウィーンの画商の息子・ヴィクトルは、絵のありかを親友のルディに教えてしまう。SSに入隊したルディは手柄をあげるために密告、絵はドイツ軍に没収された上、ヴィクトル一家は収容所送りになる。


後の独伊交渉の場で、没収した絵が贋作と判明、ルディは真作を手に入れろと厳命される。だが、収容所にいたヴィクトルからその所在を聞きだすために彼を移送中、輸送機が撃墜され、どさくさにまぎれてヴィクトルはルディの身分を盗み、SS将校になりすます。かつての主人と使用人の子の関係からユダヤ人とナチスに変わり、それが再び逆転する運命の皮肉。さらに大胆な取引を持ちかけたり、正体を知る婚約者が現れたりと、ナチスを翻弄しつつも絶体絶命のピンチを何度も用意し、観客を飽きさせない仕掛けが何重にも張り巡らされ脚本が素晴らしい。


◆以下 結末に触れています◆


終戦後、ヴィクトルの画廊を奪ったルディは、自分がオーナーとなって再開する。収容所を生きのびたヴィクトルはルディのもとを訪れるが、戦争中の因縁を蒸し返したりはしない。そしてオークションの目玉とされるミケランジェロの絵の真贋が調べられる。そこに至るまでにもさまざまな紆余曲折が用意されており、最後まで先が読めない展開に時間を忘れる作品だった。まあ、本物の絵がどこに秘匿されていたのかは、“父の遺言”で察しがついたが。。。