こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

カンフー・パンダ2

otello2011-07-23

カンフー・パンダ2 Kung Fu Panda 2

ポイント ★★★
監督 ジェニファー・ユー
出演
ナンバー 174
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


コマ落としのような素早さで拳や脚を繰り出し、めくるめくスピードで渾然とした古代中国の街を疾走する。3Dで表現されるそれらのアクションは臨場感たっぷりに観客のすぐ目の前まで飛び出してくる。映画は、武力によって世界征服を企む男と戦う運命にある主人公が、仲間と力を合わせて困難を打開し、出生の秘密というトラウマを乗り越えていくまでを描く。パンダの愛くるしい姿が怒りの炎に燃えたかと思うと、絶妙のタイミングでギャグが入り緊張を解きほぐす。そんな、ありふれた設定の中でもオリジナリティあふれるディテールが非常に楽しませてくれる。


暴君・シェンの軍団に村が襲われたとき、龍の戦士・パンダのポーに忌まわしい記憶がよみがえる。ポーはシェンを誅するために5匹の同士とゴンメンの都に向かうが、そこでは民衆が恐怖に支配されていた。


クジャクのシェンが使うカンフーは変幻自在で、尾羽を使った華麗な技が目を見張る。人の動きを模しただけではなく、クジャク特有の身体的特徴を生かした所作の数々は、めまぐるしい攻防の中にもユーモアと優雅さを備えている。そして自身のカンフーの力量では目的を達せられないと理解しているシェンは、花火を大砲に改良し、次々とカンフーマスターを倒していく。どれほど洗練された文化を持っていても進化した武器にはかなわない現実が、囚われの身となった達人たちの肩にのしかかる場面が、民主化運動で獄に繋がれた現代の運動家にダブって見える。


◆以下 結末に触れています◆


ガチョウの父に育てられたポー、指導者の地位にある両親に教育されたシェン。ふたりとも親に愛されていたはずなのに、ポーはその恩を忘れず、シェンの憎悪は自分の能力を認めてくれない両親に向う。このあたりのシェンの屈折した心理がリアルで、帝王学を学び損ねた彼が辿る転落の軌跡は、一方でリーダーの器でもないのにトップに祭り上げられた者の苦悩も浮き彫りにしている。友情や愛に恵まれ人間(というのも変だが)関係豊かなポーよりも、両親の思いを素直に受け入れられず道をはずしてしまったシェンの孤独が胸にしみる作品だった。