こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

エンディングノート

otello2011-08-20

エンディングノート

ポイント ★★★★
監督 砂田麻美
出演 砂田知昭
ナンバー 196
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人物に焦点を当てたドキュメンタリーは、作り手がどれだけ対象に踏み込めるかが命。その点、実の娘が父の最期を看取るこの作品は圧倒的なアドバンテージを持っている。ところがディレクターはそこに胡坐をかかず父親の人生に深く切り込み、巧みな編集で涙と笑いを兼ね備えた見事なエンタテインメントに昇華させている。撮られる側の父も、娘に対する小恥ずかしさと、レンズを介するからこそさらす顔の両面を見せ、少し意識した表情の中、自分がどう映るかを気にする様子が微笑ましい。


“会社命”のサラリーマンだった砂田知昭は退職後ほどなくして進行性のガンに侵される。何事にも気を配る彼は、命尽きるまでにすべき事柄と死後の段取りをリストにする。


余命わずかなのに、自身の闘病生活と葬儀がいかにスムースに運ぶかばかりに腐心する砂田。彼のto doリストのうちワガママといえるのは母・妻との伊勢志摩旅行と孫と会うことのみ。しかし、それらも肉親に悔いを残させないための彼なりの配慮だったに違いない。「上手に死ねるでしょうか」と自問する砂田の心の中にあったのは、それまで彼が見てきた他人の死に際してのゴタゴタが家族になるべく起きないようにし、妻子や孫に見守られつつもカッコよく逝きたいという彼一流のダンディズムなのだ。


◆以下 結末に触れています◆


娘にカメラを向けられる砂田にとって、この記録が死後も残るのを考えれば、決して見られたくない姿もあったはず。死の影に脅えたり苦痛にのたうちまわったりするシーンが一切ないのは、娘の前では立派な父親でいたいといった強がりなのか、それともカメラに収めたけれどカットしたのか、または最初から撮らなかったからなのか。いずれにせよ家族にすら弱みを見せず永眠した砂田は、本心ではもっと甘えたかったのではないだろうか、家族ももっと甘えてほしかったのではないだろうか。死ぬ間際でさえ己の感情よりも迷惑をかけないように心掛けるのは周囲の人々を愛していた証拠。そしてこの映像自体が映画の枠を超えた娘から父へのラブレターとなった事実に気づかされる。