こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

4デイズ

otello2011-08-23

4デイズ UNTHINKABLE

ポイント ★★★
監督 グレゴール・ジョーダン
出演 サミュエル・L・ジャクソン/キャリー=アン・モス/マイケル・シーン/スティーヴン・ルート
ナンバー 198
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


容赦なき尋問官は捕虜の小指を切断し、残りの指の爪をはがす。人権など存在しないかのごとき過酷な扱いは人道的立場から見ると首をかしげたくなるが、大義のために不特定多数の民間人を人質に取ろうとするテロリストに対しては許されるのか。映画は、核爆弾によるテロを目論むイスラムシンパ過激派と、彼を尋問するスペシャリストの虚々実々の駆け引きを通じて、もはや“正義”という言葉は己の暴力を正当化する詭弁にしか過ぎないことを露わにしていく。そして暴力の応酬が日常化したこの時代では、わずかに残った良心さえ踏みにじられてしまうのだ。


米国内に3つの核爆弾を仕掛けたと声明を出した犯人・ヤンガーが逮捕され、尋問の専門家・HとFBI捜査官・ヘレンが尋問にあたるが、ヤンガーはHがいくら肉体的苦痛を与えても爆弾のありかを白状しない。Hが行う拷問にヘレンは明らかな嫌悪感を示し対話による説得を試みる。


ヤンガーはヘレンの動きを予想していたのか、情報を小出しにし真実は口にしない。彼女の思惑は米国の良識を象徴しているのだろう、ヤンガーがヘレンを手玉に取った上に彼女の信念を粉々に打ち砕くシーンは、思考回路が全く違う異教徒との対テロ戦争における米国の苦悩を鮮烈に表現していた。最初から自分が死ぬのを想定してあらゆる覚悟ができている人間の強固な意志こそ、最も恐ろしい敵なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


ヤンガーの罠にまんまとはまり、53人もの民間人犠牲者を出してしまうヘレン。一方で、拘束したヤンガーの妻子には罪はないと彼女の理性は訴える。しかし、Hは血には血で報いようとする。どんな国家や組織も軍事力では米国にはかなわない。だがテロならば一人でも米国相手に戦える。やがて憎悪と復讐が増殖し、対テロリストとの非正規の戦争に巻き込まれたものは決して勝者にはなれない。理性や良心が失われた世界に残されたものは絶望だけというラストシーンは、対テロ戦争の未来を強烈に暗示していた。