こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

恋の罪

otello2011-08-24

恋の罪

ポイント ★★★*
監督 園子温
出演 水野美紀/冨樫真/神楽坂恵/児嶋一哉/二階堂智/小林竜樹
ナンバー 197
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


たとえ性欲でしかなかったとしても、他人から求められ必要とされる快感に目覚め、期待に応えようとするヒロイン。異様なまでに潔癖な夫との上品な生活、その一方で生きている実感には乏しい。そんな主婦が落ちた陥穽は底なしの深さで彼女の本性を解き放つ。映画は、昼間は大学助教授・夜は売春婦の顔を持つ女に、性と生の地獄を見せられた主婦が体験する禁断の解放感と心の闇を通じて、人間の本質に迫っていく。人生への憎悪を叫ぶかのような暴力的な映像と過剰な音楽そして言葉の洪水は、圧倒的な奔流となってスクリーンから客席に押し寄せてくる。


有名作家の貞淑な妻・いずみはパートに出たスーパーでモデルにスカウトされる。撮影に呼ばれたスタジオで無理矢理AVに出演させられた彼女は抑えていた気持ちに火をつけ、更なる刺激を求めて渋谷・円山町をさまよううちに美津子という立ちんぼ女と出会う。


「本物の言葉はひとつひとつ体を持っている」。そういって美津子はセックスといういずみの内なる欲望に、売春行為で実体を与えていく。美津子が口にする言葉は、ある意味答えを求めるほど真理から遠ざかる禅問答のよう。だが、いずみにとって男に抱かれている間だけは命の充実を感じられる瞬間でもある。いつしかいずみは美津子が長年求めていたがついに到達できなかった境地を通り過ぎて、未知の世界に一人で泳ぎだしていく。もはや求められるままに体を開く女ではない。カネを取って己の存在価値を確認する姿は、経済活動を通じて社会との接点を保ちかろうじて孤独を癒しているかのようだ。


◆以下 結末に触れています◆


円山町の廃アパートで起きたバラバラ殺人事件に端を発した物語は思いもよらぬ方向に寄り道しながら、時に押しつけがましいほどの禍々しさで女たちの満たされぬ魂の彷徨を描く。どこに向かっているのか、いつまで続くのか、それは本人たちにもわからない。さまざまなメタファーに満ちたエピソードの数々は、結局、愛に真実などないことを証明したかったのだろうか。。。