こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ハンナ 

otello2011-08-29

ハンナ HANNA

ポイント ★★★
監督 ジョー・ライト
出演 シアーシャ・ローナン/エリック・バナ/ケイト・ブランシェット
ナンバー 206
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


氷雪に閉ざされた深い森で父と二人で暮らす少女は、電気もガスのもない環境で射撃と格闘とサバイバル術と語学を叩き込まれる一方、苦痛も喜怒哀楽も感じない。やがて、殺人マシーンとして生まれ育てられたヒロインは己の運命に決着をつけるべく一人旅立つ。映画は、第三者との接触なしに成長した少女が困難を克服する過程で愛や友情といった人間的な情緒を手に入れていくのかと思いきや、ウエットな感傷に浸らず自分探しに邁進するところがユニークだ。生き残るためには殺すしかない状況で、感情を消して直観に従う姿は気高さすら覚える。


元暗殺者のエリックに育てられたハンナは独立を望み、CIA高官のマリッサを殺す“卒業課題”を与えられる。ハンナはCIAの秘密基地で接触してきたマリッサを倒そうとするが失敗、基地から脱走してキャンピングカーに拾われ、ベルリンを目指す。


マリッサは殺し屋を雇ってハンナを追わせ、自らはエリックに狙いを定める。道中でハンナは同年代の少女・ソフィーと仲良くなったり、スペイン人青年にナンパされたりする。初めて知った他者と触れ合う楽しさ、だが彼女は心を開かない。いや、心を開くという概念がないのだろう。キスをしようとする青年を投げ飛ばすが、彼女には胸に湧き上がる安らぎですら本能は警報を鳴らす。そんなハンナの愛を知らない人生が悲しみを誘う。また、ベルリン地下街でエリックが4人の刺客を一瞬で倒すシーンは、地上から尾行されているエリックをカメラはずっと追い、地下で人の流れが切れた瞬間に始まる格闘劇までをワンカットで収める。エリックの緊張が流麗な映像の中で徐々に高まっていく趣向は非常に洗練されている。


◆以下 結末に触れています◆


映画は音楽にもこだわりを見せる。スペインの情熱的な旋律、殺し屋が口ずさむポップなメロディ、協力者のレコード等、音楽を言葉の定義としてしかとらえていないハンナにはその美しさがどこまで理解できたのかは知る由もないが、きっと彼女の中に新たな情動が芽生えたに違いない。物語は多少強引なところもあるが、シアーシャ・ローナンのあどけない表情とDNA操作された暗殺者のギャップが最後まで興味を引きつけてやまなかった。