こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ウィンターズ・ボーン

otello2011-09-07

ウィンターズ・ボーン WINTER'S BONE

ポイント ★★★*
監督 デブラ・グラニック
出演 ジェニファー・ローレンス/ジョン・ホークス/ケヴィン・ブレズナハン/デイル・ディッキー/ギャレット・ディラハント
ナンバー 202
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


生命の気配が希薄な荒涼とした冬の森、どんよりと雲が垂れこめた陰鬱な鉛色の空。決して自然派志向などではない、文明の喧騒や繁栄から忘れられた山間部に住む人々は、この世に希望などというものがあることすら知らずに暮らしている。貧困と諦観、それでもヒロインはありったけの勇気を振り絞り逆境に立ち向かう。映画は、保釈中に行方をくらました父を探す少女が、地域を支配する見えない掟と大人たちの妨害を受けながらも、何が起きたのかを探り真実を知っていく姿を描く。どんな状況でも卑屈にならず、困難に対して挑みかかるような彼女の視線には命がけで家族を守る覚悟が宿っている。


情緒不安定の母と幼い弟妹の面倒をひとりで見ているリーは、逃亡中の父に裁判を受けさせるために消息を追う。しかし村人の口は固く、手掛かりを知る人物・サンプを訪ねるが門前払いされる。


父は麻薬ディーラーで、逮捕されたときに口を割ったせいで制裁を受けたのだろう。大人はみな気付いているが、誰もリーに教えようとしないばかりかリーを真相から遠ざけようとする。だが、父を見つけないと家を追い出されるリーは我慢強く大人たちに協力を求めていく。リーは父への気持ちを口に出さないが、彼女の脳裏にも少しは愛された記憶が残っているのか、あちこちで聞かされる父の悪口に胸を痛めている様子。妻子を見捨てたどうしようもない男でも父親、でもそんな思いよりも迫りくる立ち退き期限のほうが切実で、リーは感傷に浸っている暇はない。そのあたり、17歳の少女とは思えないほど感情を抑え現実に対処しようとするリーの強さがかえって痛々しい。


◆以下 結末に触れています◆


父はすでに死んでいると悟ったリーは彼のアルバムを開いた後に写真を燃やしてしまう。それは弱さゆえに組織を裏切り殺された父を恥じ、過去と決別して未来に踏み出そうとする決意。あくまで寡黙な映像の中、すべてを知った後ですら壮大な母性を示すリーの笑顔は、少女の域を超えたくましさを身に着けていた。