こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アクシデント

otello2011-09-14

アクシデント 意外
ポイント ★★*
監督 ソイ・チェン
出演 ルイス・クー/リッチー・レン/ミシェル・イエ/ラム・シュー
ナンバー 192
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


偶然なのか必然なのか、一度芽生えた疑念は男の心を切り苛み、仲間への信頼を蝕んでいく。真実は探せば探すほど遠ざかり、暗雲は制御できないほどに大きくなっていく。事故に見せかけた謀殺を生業とする“仕事人”たちが、ある一言がきっかけで自滅していく様子が、ジリジリと炙られるような不快感を伴って描かれる。裏切り者が誰かはわからず、信じられるのは己だけ。いや、もはや自身の判断にも自信が持てなくなっている。映画は、孤立無援の中、自己増殖した妄想に押しつぶされていく主人公の焦りといら立ち、その息苦しいまでの心理状態を丁寧に掬い取り、リアルに再現していく。


4人組の殺し屋グループは車いすの老人を感電させて殺す。ところが、仲間の1人が暴走バスにはねられて落命したことから、リーダーのホーは情報漏れを疑い始める。


プロローグ、ターゲットを細い路地に誘い込み、あくまで事故死を偽装するホーたち。あまりに手の込んだ仕掛けは不確定要素が多すぎ、だれも故殺とは思わない。老人の暗殺も雨中電線にひっかけたタコ糸に触れさせようというもの。当然、万全を期した計画は何度も延期を余儀なくされ、ホーたちは何夜もひたすらチャンスを待つ。だからこそ予定外の出来事に、逆に狙われているのは自分たちではないかという邪念にとらわれていく。殺し屋の身の上に起きる不運が偶然であるはずがない、危険を察知したホーは反撃を試みる。


◆以下 結末に触れています◆


怪しげな男を見張り盗聴し丸裸にしようとするホー。しかしが、常に「最悪」を想定していたからこそこの業界で生き残ってきたホーの用心深さは、かえって彼をがんじがらめにしていく。そしていよいよ危険を取り除くためのプランを決行したとき、街が突然日食の闇に覆われ、ホーは今まで我が身が狙われていると感じていたのは単なる思い込みだったと知る。だが、日食こそ正確に日時と場所が予測できる天体現象、これこそホーが思い込みだったと思い込むのを予想した罠ではなかったのか。この壮大なトリックには思わず膝を打った。