こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ザ・ウォード/監禁病棟 

otello2011-09-17

ザ・ウォード/監禁病棟 THE WARD

ポイント ★★
監督 ジョン・カーペンター
出演 アンバー・ハード/メイミー・ガマー/リンジー・フォンセカ
ナンバー 176
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


悪意と怨念に満ちた暗く長い廊下、死者の悲鳴が張り付いたような陰鬱な壁、そして猜疑心をたたえた職員の目。いまだ拘束や電気ショックなどの非人間的な治療が一般的に行われていた’60年代の精神病院、中でも特に管理の厳しい“制限区域”に収容された患者の目に映る、閉ざされた空間の描写がリアルだ。“自分は正常だ”と医師やスタッフに強く訴えるほど異常性が強調される逆転の世界、ヒロインは隠ぺいされた過去を探るうちに恐るべき真実を知る。幻覚と現実の境が曖昧になり意識が混乱していく過程は、やはり彼女が正気でないことを物語る。


一軒家に放火し逮捕されたクリステンは精神病院に保護される。そこには彼女の他に4人の入院患者がいたが、いつの間にか1人また1人と人数が減っている。さらに亡霊の影がちらつきだす。


アリスと呼ばれる亡霊は入院患者に恨みを持っているらしく、次々と彼女たちを血祭りにあげ、やがて魔手はクリステンにまで伸びてくる。ところが、アリスに殺された患者の死体はどこにも見当たらない。しかもアリスは神出鬼没でクリステンの予期せぬ場所・タイミングで襲い掛かってくる。そんな、あまりにもベタな演出はアリスが次にどこに現れるかを予想させ、その期待を決して裏切らない。そもそもクリステンが精神に異変をきたしている設定自体が、この映画のオチを予感させるのだが。


◆以下 結末に触れています◆


アリスの正体はおどろおどろしい外見とは違い、強烈な恐怖から身を守るために彼女自身が心の外に追いやった本来の人格。ゆえに実際は誰も他人を傷つけてはおらず、すべては彼女の妄想だったという手あかのついた結末。にもかかわらず、実際には両親に愛され、医療スタッフからも大切に扱われていた事実が明らかになるにつれ、ベッドのアリスに優しい気持ちを抱かせてくれる。だからこそ余計に鏡の中からクリステンを飛び出させる必要はなかったのではないだろうか。明らかな蛇足だった。