こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アントキノイノチ

otello2011-09-19

アントキノイノチ

ポイント ★★★*
監督 瀬々敬久
出演 岡田将生/榮倉奈々/松坂桃李/原田泰造/染谷将太/檀れい/鶴見辰吾/柄本明/堀部圭亮/吹越満/津田寛治/宮崎美子
ナンバー 215
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


遺品に焼き付けられた故人の思い、それは残された者に思い出となって直接語りかけてくる。愛した記憶、愛された記憶、忘れていた場面が脳裏によみがえる時、人は命のつながりを感じるのだ。一方で、無念をいだたまま死んだ人、過去を共有する血縁者のいない人もいる。それでも、他人に覚えていてもらうことで、確かに存在したという証を残す。物語は、心が壊れた青年が遺品整理の現場で働くうちに、すべての人間は誰かと繋がっていると気づいていく過程を描く。絶望と死の影に押しつぶされそうなゆっくりとしたテンポの映像からは、繊細な主人公の喪失感が重くのしかかってくるようだ。


高校時代、親友の自殺で精神のバランスを失った杏平は遺品整理業者で働き始める。ハエやゴキブリがわき、ごみが散乱する孤独死のアパートを片付けるうちに、生きるとは何かを考え始める。仕事に慣れるにつれ同僚のゆきとも仲良くなるが、ゆきもまた他人には話せないつらい体験を背負っていた。


誰にも看取られずに逝った人々は、何らかの理由で家族と音信不通になった人ばかり。だが、遺族に憎まれ遺産すら引き取りを拒否される人でも、本当は家族に会いたい気持ちを引きずっていた事実がモノを通じて語られる。杏平はそういった経験を積むうちに、己の人生もまた両親や友人と確実に影響し合っているのを学んでいく。特に老人ホームで息を引き取った女性の夫が留守電のテープを繰り返し聞いて妻の願いを知るシーンは、人は死んでも苦楽を共にした人の胸の内で輝き続けることを思い出させてくれる。


◆以下 結末に触れています◆


「元気ですか〜!」 やっとお互いの傷を認め合い、理解し合った杏平とゆきは砂浜で海に向かって叫ぶ。もちろん彼らは現役時代の“燃える闘魂”は知らないが、悲しみや挫折のせいで生きる勇気を無くしそうになった若者たちに気合を入れる元プロレスラーは知っている。この作品のタイトルを含めて、アントニオ猪木の偉大さを改めて認識させられたシーンだった。