こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ツレがうつになりまして。

otello2011-10-12

ツレがうつになりまして。

ポイント ★★*
監督 佐々部清
出演 宮崎あおい/堺雅人/吹越満/津田寛治/犬塚弘/梅沢富美男/田山涼成/大杉漣/余貴美子
ナンバー 242
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


痛かったり辛かったりといった肉体的な苦しさではなく、頭に霞がかかって思考力が衰え何をするにも体がだるい。一応自制心が働いて他人がいるところでは心配かけまいと気丈に振る舞おうとするが、あとで疲労感が決壊する。映画は、そんな夫と暮らす妻の視線で、うつ病患者との距離の取り方を手探りで模索する。薬で気分がよくなる日もあるが、些細な言動で落ち込むときもある。不眠が続くと思えばひたすら眠ったりする。ただそっと見守るしかない、それでも夫婦ずっと一緒いられるささやかな喜びがそこには満ちている。


売れない漫画家・晴子はツレと呼ぶ夫が過労からうつ病になったと知り、会社を辞めさせる。病院に診察に行く以外は家にこもりっきりになるツレに晴子も付き合うが、失業保険も底を尽きかけ、連載を切られた晴子は家計を支える必要に迫られる。


毎日自分で弁当を作り、曜日ごとに決まったネクタイを締める。几帳面なツレは何事もきちんとやらなければ気がすまず、仕事も手抜きできないのだろう、やがてプレッシャーに押しつぶされてしまう。物語はツレの症状をあくまで晴子の目に映る客観的事実ととらえ、決してツレの主観で描こうとはしない。ツレを演じる堺正人は目じりや口元に複雑なしわを寄せて心境を表現するが、あえてほとんど感情を出さずに心の重さを際立たせる。その抑制のきいた映像はむしろ退屈だが、劇的な出来事が起きない平凡な日常こそがうつ病の最良の薬なのだ。


◆以下 結末に触れています◆


ツレの代わりに稼がなければならなくなった晴子は、思い切って編集者に何でもいいから仕事をくれと頼み込む。晴子に欠けていたのは実はマンガに対するハングリーさで、描きたいものがない漫画家の作品など読者は求めていないことに初めて気づく。そしてやっと見つけたうつ病のツレとの生活という題材を作品に昇華させる。ツレを通じて晴子もまた成長していく姿がいとおしくなるほどの温かさに包まれた作品だった。