こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

密告・者

otello2011-10-14

密告・者 綫人


ポイント ★★★
監督 ダンテ・ラム
出演 ニコラス・ツェー/ニック・チョン/グイ・ルンメイ/ミャオ・プー/リウ・カイチー/ルー・イー
ナンバー 231
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


「友人のように扱うが、友人ではない」。役に立つ間は援助してくれるが、危なくなると切り捨てる。刑事たちは密告者に対して、時に親身に接しに時に厳しく突き放し、選択肢のない彼らにストレスをかけていく。一方で密告者は、いつ正体がばれるかと脅えながらも、刑事しか頼れる者はいない。一度魂を売って警察のイヌになった者は、決して元には戻れない地獄への一本道を進むのみ。映画は、そんな密告者の人生と引き換えに組織内で昇進を果たした刑事が直面する自らへの呵責と、彼の手先となって犯罪組織に潜り込んだ若者の先が見えない恐怖を通じ、他人を信じられない世界の男たちの刹那的な生き方を描く。


父親の借金のせいで娼婦になった妹を助けるために、出所したばかりのサイグァイはドン刑事の密告者となって、バーバイ率いる強盗団の運転手になる。そこでサイグァイはバーバイの女・ディーに接近し携帯のデータを盗み出す。


制裁を受ける密告者が、ドスで切りつけられるシーンが生々しい。刺さないので切創は致命傷にはならないが、その苦痛の記憶にいつまでものたうちまわる構図。また、検問を突破したサイグァイが自慢のドライブテクニックを見せる場面ではBGMに「ホワイト・クリスマス」を使い、スピーディな映像とスローテンポの音楽という見事なミスマッチを見せる。さらに渋滞中の高速道路でクルマを乗り捨て、反対車線のクルマを乗っ取って警察の尾行をまく荒っぽいが高度な返し技。さまざまな映画的アイデアが、ドンとサイグァイの苦悩の物語にアクセントを添えている。


◆以下 結末に触れています◆


バーバイ一味は宝石店を襲い、金塊を強奪する。その後も疑心暗鬼と仲間割れのなかで、銃弾で傷ついたサイグァイは逃げるしかない。だが、逃げきれないことも分かっている。サイグァイ焦燥と絶望、そして彼を追いつめたドンの後悔。裏切りの果てには破滅が待ち受けているのが見えていても、そこに飛び込むしかない男たちの懊悩が、ヒリヒリする痛みとなって鮮やかに伝わってくる。