こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

東京オアシス

otello2011-10-27

東京オアシス

ポイント ★*
監督 松本佳奈/中村佳代
出演 小林聡美/加瀬亮/黒木華/原田知世
ナンバー 255
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


深夜の高速道路、最終回の映画館、平日の動物園…。都会の雑踏と喧騒から少し距離を置くと、そこには周囲よりゆったりと時を刻むような空間がある。ぎっしりと詰まったスケジュールに忙殺されているらしい女は、気の向くままに仕事を抜け出し、出会った人々との会話を楽しむ。何も起こらない、波乱に満ちた話が聞けるわけでもない。ただただダラダラとした時間が過ぎていく。映画はそんな“がんばっている仮面”を脱ぎ捨て素のままの自分に戻ったヒロインがつかの間の息抜きをする姿を追い、わざわざリゾート地に出かけなくても、無為に過ごす豊饒は日常のすぐそばにあると教えてくれる。


コンビニ駐車場から道路に飛び出そうとしたオバサンは八百屋の男に助けられる。彼女はトウコという俳優で撮影現場から逃げ出したと言う。トウコは八百屋の配送車に乗りこみ、ふたりはドライブに出る。


最初は警戒していた八百屋も元バレーボール選手だった共通点から徐々に打ち解けていくが、夜明けの海岸で朝日を眺めて別れるだけ。劇的に美しい朝やけを見せるのでもなく、衝撃の告白もない。映画館でトウコと元脚本家・キクチが再会する第2話も、その前フリに認知症の老婆が登場するが、常連のもたいまさこの顔見せのみでストーリーには絡んでこない。キクチに脚本家を再び目指させる前に、この老婆を伏線にした設定を考えるべきだ。


◆以下 結末に触れています◆


第3話、動物園でトウコは美大に5浪した挙句受験をあきらめた女に声をかける。ここでも彼女の絶望や不安などの苦悩には踏み込まず、ふたりはのんびりと散策し、目当てだったツチブタの餌付けも見られないまま。結局、3つのエピソードとも、肩肘張って生きなくてもいいということ以外はまったく不明で、寓意やメタファーはいくら考えても思い浮かばなかった。まあ、人生なんてこんなもの、押しつけがましさのないところはよい。だが、もっとイマジネーションを刺激するような工夫をすべきだろう、せっかく映像という表現手段を用いるのならば。。。