こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

パーフェクト・センス

otello2011-10-29

パーフェクト・センス PERFECT SENSE


ポイント ★★★
監督 デヴィッド・マッケンジー
出演 ユアン・マクレガー/エヴァ・グリーン/ユエン・ブレムナー/コニー・ニールセン
ナンバー 256
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


両親や恋人、家族といった親しい笑顔の残像。においの記憶は懐かしい思い出に満ち溢れている。それが消えていく刹那に覚える深い悲しみは、楽しかった過去を失うのと同じこと。さらに食べる行為から“味わう”意味が除外され、料理の存在価値もなくなってしまう。人から五感を奪っていく感染症、食い止める術はなくこの世は終末に向かっていく。それでも想像力と音楽で森の香りを再現しようとしたり、食感や音で料理を評価しようとしたりする。もう助からないのは分かっている、だからこそ理性の崩壊を必死で食い止めようとする人々は痛々しくもある一方、あくまで人間的であろうとする姿勢が美しい。


世界中で嗅覚が侵される症状が蔓延し、開店休業状態になったレストランのシェフ・マイケルは、厨房裏のアパートに住む感染学者・スーザンに食事をふるまう。ふたりは交際を始めるが、やがて味覚・聴覚と順に機能が停止していく。


嗅覚を何とか他の器官で補おうとし、味覚がなくてもまだ冷静さを保っていられる。ところが、巨大な怒りともに耳が聞こえなくなると、パニックが起き暴動・略奪に走る者もでる。そんな中、マイケルとスーザンはなんとか未来を信じようと求めあい、与えあう。カメラはふたりの運命を切ないまでにさめざめとしたトーンの映像でとらえ、諦観が支配するような旋律が胸を締め付ける。残された時間は短いと知っていて気付かぬフリをする姿が、余計に彼らが抱く絶望を際立たせる。


◆以下 結末に触れています◆


最期の時はいちばん大切な人と過ごしたい、そう願うマイケルとスーザンは音のない世界でお互いを探し求める。再び抱き合った時、喜びと共にふたりは暗闇に落ちる。もはや感じるのは相手のぬくもりのみ、ほどなくその先に“死”という名の“無”が待ち受けているのはわっている。だがそれは、感覚から解放された魂のレベルでの結びつき。そして愛し合う人間がいる事実が救いとなって、この映画を愛の物語に昇華することに成功している。