こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フェア・ゲーム

otello2011-11-01

フェア・ゲーム FAIR GAME

ポイント ★★★
監督 ダグ・リーマン
出演 ナオミ・ワッツ/ショーン・ペン
ナンバー 259
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


探してみたけど見つからなかったのではなく、最初からないとわかっていた。どうしてもほしい開戦の口実のために、事実を捻じ曲げ上司が喜ぶ報告をする。そのためには末端の工作員の身を脅かし、ましてや外国人の安全など歯牙にもかけない。映画は、国家に尽くしたのに、政権から裏切られた末に偽善者呼ばわりされた夫婦が真実を求めて戦う姿を描く。偽装していた身分が暴露された直後から、それまで見慣れていた街の風景が一変し、自分が狙れているという不安に駆られるヒロインの心情が生々しい。


CIAエージェントのヴァレリーはイラク大量破壊兵器の調査をするが、どこからも確証は得られない。夫の元大使・ジョーもイラクニジェールウラン売買を追うがまったくのシロ。しかし、副大統領補佐官がアルミ管輸入こそ核兵器製造の証拠と強弁、イラク戦争が始まる。


ヴァレリーをはじめ、担当のCIA局員たちはこぞって「イラク核兵器製造は不可能」とリポートしているのに、100%確実ではないとこじつけて核兵器の存在をでっち上げる副大統領の側近たち。ほとんどの者はその圧力に屈し、自説を引っ込めてしまう。さらに新聞に投稿したジョーを追い詰めるためにヴァレリーの正体を明かし、見せしめにするなど、マスコミを利用して世論を煽り刃向うものの抹殺を図る狡猾かつ巧妙な情報操作が恐ろしいほどリアルだ。


◆以下 結末に触れています◆


結局最後には欺瞞は打ち破られ、米国の民主主義がまだ死んでいないことを証明する。だが、「嘘をつくのが仕事」とジョーに言われヴァレリーが深く傷つくシーンに象徴されるように、彼女は工作員として、時には一般市民の弱みに付け込み、時には暴力で脅して、敵国の秘密を盗み、奪ってきたはず。一応ふたりの名誉は回復されるが、それはあくまでブッシュ政権に対する勝利。ヴァレリーは己の弱さを嘆く前に、まず犠牲になったイラク人協力者、いや、おそらくそれ以前にも彼女を信じて命を落とした協力者たちへの贖罪を果たすべきだろう。。。