こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ステキな金縛り

otello2011-11-04

ステキな金縛り


ポイント ★★★
監督 三谷幸喜
出演 深津絵里/西田敏行/阿部寛/竹内結子/浅野忠信/中井貴一
ナンバー 264
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


一応、裏切り者の誹りを受けて首を刎ねられた無念を晴らしたいといった名目はある。ところが、なぜ眠っている人の上に馬乗りになって金縛りにあわせるのかと法廷で問われると、“幽霊とはそんなものじゃ”と法律家を納得させる答えを持たない。被告の疑いを晴らすために召喚された幽霊、姿は見えなくても意志があれば証人とみなされる場面に死者もまた人間という思想が凝縮されている。映画は殺人事件を担当する弁護士が落武者の幽霊と心を通じ合わせていくうちに、亡くした父への感情と仕事に対する自信を取り戻していくまでを描く。髪を振り乱して周囲の人々を動かしていくコミカルかつエネルギッシュなヒロインを深津絵理が熱演、スクリーンから強烈な吸引力を放つ。


スランプ真っただ中の弁護士・エミは妻殺しの容疑で逮捕された男の弁護を引き受ける。男は犯行当夜は金縛りにあっていたと主張、立証するために落武者・六兵衛の幽霊に証言台に立ってほしいと頼み込む。だが六兵衛の姿は一部の人の目にしか映らず、エミはあの手この手で存在を証明しようとする。


その過程で、エミが関わる人々が他人に言えなかった気持ちを吐き出していく。それは叶わなかった願いや解けなかった誤解、実現しなかった夢。人はさまざまな悩みや後悔、つらさを抱えても生きていかなければならないことを学び、エミは成長していく。彼女の、いじらしいほどの一途さはつい応援したくなるほど。そしてなんとか検察側と裁判長に六兵衛の尋問を認めさせ、前代未聞の裁判として世間の耳目を集めていく。


◆以下 結末に触れています◆


ただ、テンポよく展開していた物語があの世の公安官が登場したあたりからもたつくのが難点。もっとたたみかけるように六兵衛のエピソードで押し切っていればシャープな印象になったはず。ラストシーンにしても、エミは自分の思いが父に届かなかったと思っているのに父の霊はずっとエミに寄り添っている、みたいな方がしみじみとした余韻を残せたに違いない。。。