こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ヒミズ

otello2011-11-07

ヒミズ


ポイント ★★★
監督 園子温
出演 染谷将太/二階堂ふみ/渡辺哲/吹越満/神楽坂恵/光石研/渡辺真起子/黒沢あすか/でんでん/村上淳
ナンバー 254
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


苦悩の果てに絶望があるのなら、絶望の先には何があるのだろう。おそらくは破滅、しかし、我が身を愛してくれる者が現れた時、もしくは命がけで守りたい者ができた時、それは走り出す勇気、再生への希望に生まれ変わる。両親に見捨てられた少年は怒りとあきらめ以外の感情をなくし、同じく母にうとまれている少女は少年のそばにしか居場所を見つけられない。映画は、中3にしてひとりになった主人公が世間と交流していく過程を通して、自己存在の意味を問い直していく。津波に襲われた瓦礫だらけの街並みが荒涼とした彼の心情を象徴し、殺すべきクズと自らの死に場所を求めて魂と肉体を彷徨させる彼の姿は切ないまでの孤独を纏っていた。


川べりの貸しボート屋に暮らす住田は、育児放棄されたせいで、普通こそサイコーと思っている。そんな住田にクラスメートの景子は強く惹かれ、住田にまとわりついた揚句、ボート屋を手伝い始める。


“自分のこと以外なら何でも分かる”と豪雨の中でヴィヨンの詩集を朗誦する景子。不幸や不正には敏感に反応するのに、純粋であるはずの己の心だけは見えない。それは思春期の少年少女誰もが抱えている悩み。一方で住田の、人生とは何か、そもそも人生とは必死になって生きる価値のあるものなのかという疑問は、狂気と紙一重となって映像からほとばしり、圧倒的なパワーで見る者のハートを鷲掴みする。そして父を殴り殺した住田は、胸の奥の鬱憤を爆発させ暴力に転嫁しようとする。


◆以下 結末に触れています◆


住田の置かれた状況は悲惨だが最悪でもない。血だらけ泥だらけ絵具だらけになっても、その若さゆえの蹉跌はすべては雨と川の水が洗い流すし、彼の未来のために借金を肩代わりするオッサンや、寄り添って心配してくれる景子もいる。確かに住田にとって現在はどん底だ。だが、そこから這い上がらせるのに「住田ガンバレ、夢を持て!」などと景子に叫ばせてしまうのはストレートすぎないか。園子温ならば、もっと予想外の結末で驚かせてくれるのを期待したのだが。。。