こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ

otello2011-11-12

RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ

ポイント ★★★
監督 蔵方政俊
出演 三浦友和/余貴美子/小池栄子/中尾明慶/吉行和子
ナンバー 262
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


妻を労ってやるのが思いやりと考えている夫、しかし妻が求めていたのは優しさなどではなく夫の理解。家族のために頑張ってきたと信じている彼と、これからは自分のために時間を使いたい彼女は、それぞれが転機を迎えて決断を下す。映画は地方都市の電鉄を舞台に、運転士として生きる厳しさと長年つれ沿ったのに相手の心が見えていなかった夫婦の葛藤を描く。峻嶮な山脈が町に迫り、単線を2両電車が走る田園、そして人々の小さな日常。平凡な人生にもひとつひとつにドラマがあり、日々の出来事にはすべて人の思いがこもっている。あらためてそのことを思い出させてくれる作品だった。


定年まであと1カ月になった運転士の滝島は、妻の佐和子から「看護師として働きたい」といわれる。頭ごなしに反対すると佐和子は家出、結婚指輪と共に離婚届を残していく。


30年以上も無事故無違反を続けた滝島は、新人の指導担当になっても無駄口ひとつきかない。まじめそのものの実直さは運転士の資質に必要なものなのだろう。だが、秩序や正確さを優先する性格は、家庭では退屈で融通の利かない夫・父と妻子の目に映っている。そんな滝島の胸に、夫婦円満の秘訣はけんかした時はまず己に原因がないか省みるという同僚の言葉が突き刺さる。一方で、三行半を突き付けた佐和子もどこかで滝島が折れるのを期待している。愛はもう冷めた、でもなんか使い慣れた道具のような愛着をお互いに持っている。ふたりの微妙にすれ違う感情をカメラは丁寧に掬い取り、年齢を重ねた者だけに許された味わい深い共感を呼ぶ。


◆以下 結末に触れています◆


やがて、佐和子が懸命に老婆を介護する姿を目のあたりにした滝島は、彼女の覚悟を知って自立を応援する決心をする。結婚指輪を捨て、離婚届を出すが、それを聞いた佐和子の驚いた表情が印象的。社会復帰さえ認めてくれれば別れるつもりはない彼女の誤算、ここでも妻の気持ちを忖度してやれない滝島の不器用さに身がつまされた。