こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マネーボール

otello2011-11-14

マネーボール Moneyball

ポイント ★★★
監督 ベネット・ミラー
出演 ブラッド・ピット/ジョナ・ヒル/ディミトリ・マーティン/フィリップ・シーモア・ホフマン/ロビン・ライト
ナンバー 270
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


グラブにこもるドロースのにおい、磨きこまれたバットの光沢、フィールドから立ち上る芝生の香りと土煙、そしてスタジアムを照らすカクテル光線と熱狂する観客。そういったファンのノスタルジアを刺激する野球の魅力とは一線を画し、過去のデータだけを頼りに選手起用を決断する主人公。少ない予算で才能のある選手を集め結果を導こうとする手法は、チームを強くする情熱にはあふれていても、野球に対する愛情は感じられない。それは若き日に大志を抱いてプロ入りしたにもかかわらず選手としては大成しなかった者だから到達できた、“ビジネス”の感覚から生まれたものだろう。


アスレチックスのGM・ビリーは統計の専門家・ピーターをスタッフに加えてチームの再建を図る。死四球を含めた出塁率で選手の能力を測り、他球団から安い年俸で引き抜いた選手を積極的に試合に出す。


その間、「経験」や「直観」も重視する古参スタッフや監督の同意を得られずチームは低迷、ビリーは孤立するが、ピーターをうまく使いこなすことで危機をしのぐ。やがて彼らの理論が機能し始めるとチームは勢いづくが、野球自体は大味になっていく。バント・盗塁はダメではスピードが失われる上、守備軽視は緻密さに欠けるし、チームワークという概念を無視した方法論は点は入ってもプレー水準を引き下げるもの。もはやベースボールは選手やファンのものではなく、カネ儲けの手段すなわちマネーボールに堕ちてしまう。野球経験もなくエクササイズとは一切縁がなさそうなでっぷりと太ったメガネの数式おたく・ピーターこそその象徴、選手は商品でしかなく成績とギャラで価値が決められる。こんな野球、張本勲が見たら絶対に「喝!」と言うはずだ。


◆以下 結末に触れています◆


「夢」が動機の成功譚は胸を打つが「カネ」が動機では共感は呼ばない。それをわかったうえであえて感動的なシーンを省いた演出が非常にクールで、端正な映像とマッチしていた。現代のプロ野球界、いやプロスポーツ界全体がいかにマネタリズムに蝕まれているかがよくわかる作品だった。