こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

家族の庭

otello2011-11-16

家族の庭 ANOTHER YEAR

ポイント ★★★*
監督 マイク・リー
出演 ジム・ブロードベント/レスリー・マンヴィル /ルース・シーン/ピーター・ワイト/オリヴァー・モルトマン/デヴィッド・ブラッドリー
ナンバー 272
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


まるで沈黙を恐れるかのように絶え間なくしゃべり続ける中年女。寂しさを隠そうとしている反面、孤独な心を理解してもらいたいと強く願っているようでもある。夢はあった、そして叶った、しかし現実という嵐の前で徐々に色あせ、ついには無残に壊れてしまった。映画はそんな彼女の心境を赤いクルマで象徴する。きっといい人なのだろう、ただ少し己を客観視できず感情を抑制できないおばさんをレスリー・マンヴィルが好演。まだまだチャーミングだと思い込んで頑張っているけれど、どこかズレている女心のイタさと哀しさを見事に表現していた。


トムとジェリーの老夫婦と息子のジョーは良好な親子関係を築いている。ある日、ジェリーの同僚・メアリーを家に招くが、メアリーは男運の悪さを嘆き中古車を買う予定を語った後、泥酔して眠りこけてしまう。


バーでちょっとセクシーな男に秋波を送ったり、独身のジョーに必死でアプローチするメアリー。おそらく50歳は越えている、なのに恋の現役にしがみつこうとする。だが、バーの男は恋人と待ち合わせ、自分の気持ちばかりを押し付けるメアリーに当然ジョーは大迷惑顔。その後もジョーの恋人・ケイティに対して露骨な不快感と対抗心をむき出しにするシーンは滑稽で、女としての勝負は明白なのにそれでも「非」と「負け」に納得できずすねる姿はむしろ憐れみすら誘うほどだった。


◆以下 結末に触れています◆


メアリーはトムの兄・ロニーと二人きりになったとき、無口なロニーに一方的に語りかけ、「話し相手がいるのはいい」と感想を漏らす。一方で、自らの体験を面白く脚色しつつも相手の話にも耳を傾けるコミュニケーションの上手な取り方を実践しているトムとジェリー。食卓ではふたりの弾む会話にジョーとケイティも巧みに絡むのに、メアリーは口をはさめない。彼女に足りなかった「他人への思いやり」にやっと気付いたのか、所在なさげな表情が印象的だ。聞き役に徹してくれるロニーとの新しい展開を予感させるラストに、少し胸をなでおろした。