こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サラの鍵

otello2011-11-24

サラの鍵 ELLE S'APPELAIT SARAH

ポイント ★★★★
監督 ジル・パケ=ブランネール
出演 クリスティン・スコット・トーマス/メリュジーヌ・マヤンス/ニエル・アレストリュプ/エイダン・クイン
ナンバー 278
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


人々の記憶から消えてしまった忌まわしく遠い過去を掘り返し、思い出させて誰かが幸せになるのか。その問いにヒロインは答えられない。だが誰かにわかってもらいたいという願いは確実に人の中に存在し、どれほどつらくても真実を明らかにすることが魂を浄化してくれる。映画は第2次大戦中のユダヤ人狩りに始まったひとりの少女の半生を現代のジャーナリストが調査していく過程で、人の思いを受け継ぐ行為が生きる勇気につながると説いていく。悔恨の烙印となった鍵に象徴される彼女の苦悩を理解してやるのも、あとに残された者の役目でもあるのだ。


フランス政府によるユダヤ人一斉検挙の日、10歳のサラは弟を納戸に匿って鍵をかけるが、そのまま両親とともに連行されてしまう。数日後サラは収容所に移送されるが、弟を救出するために友人とともに脱走する。


鉄条網をくぐって黄金色の麦畑を走るサラと友人。美しい光景なのだが、先には絶望が待つ旅であるのはサラにも分かっている。納戸から出られなければ死んでいるし、仮に脱出してもすぐ警察見つかる、いずれにしても幼い弟が無事でいないのは必定。それでも確かめずにはいられない彼女の気持ちが痛いほど切ない。60数年後の雑誌記者・ジュリアがわずかな手がかりを手繰り寄せサラの足跡を追い心中をくみ取っていくが、それは同時にジュリアとっても命の糸を紡ぐ作業になっていく構成が絶妙のアクセントとなっている。


◆以下 結末に触れています◆


両親はガス室で処刑されたが、弟は自分が殺してしまった。その事実はホロコーストの悲劇以上に深い傷となってサラに生涯付きまとい、彼女は心を閉じたまま残りの人生を送る。ジュリアはそんなサラの感情を引き受けて、彼女と家族に対する借りを返そうとする。そしてサラが隠し通した秘密をやっと探し当てたサラの息子に伝え、人が生まれてきた意味を深く訴える。時代を超えた2人の女が運命の皮肉に途方に暮れる一方、命がリレーされる幸運と生きている幸福が未来への希望となって滲み出す。その圧倒的な重みをもつラストシーンには、押しつぶされそうになりながらも、清明なカタルシスを覚えた。


↓公式サイト↓