こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

わが母の記

otello2011-12-20

わが母の記

ポイント ★★★
監督 原田眞人
出演 役所広司/樹木希林/宮崎あおい
ナンバー 297
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


少女時代の叶わなかった恋の話を何度も繰り返す年老いた母。物忘れと思いこみが激しくなり、駄々をこねる幼児のようになっていく。子供の時その母に捨てられた恨みを残す主人公は、彼女と距離をとりつつその様子をうかがっている。数十年経っても癒えないトラウマ、過去を問い質そうとしても相手が忘れていては話にならないとあきらめる彼の愛と憎しみが入り混じった複雑な感情が共感を呼ぶ。映画は流行作家とその家族が認知症の母とかかわりつつ、家族の絆を強めていく過程を端正な構図に収める。いつも遠い昔を見つめるようなまなざしの老母を演じる樹木希林のとぼけた味わいが、時に笑いを時に涙を誘う。


父の見舞いに実家を訪れた有名作家の洪作は、母がボケ始めているのに気づく。父の死後、長女が母の面倒を見ていたが、長女の夫が交通事故で重傷を負ったため、東京の洪作が母の引き取り、洪作の三女・琴子が何かと世話を焼くようになる。


洪作の家庭では、家族のセレモニーを大切にする。一同そろっての夕食、赤ちゃんのお食い初め、老母の誕生パーティ。それはまだ「核家族」という言葉がなかった時代の三世代が同居する家。1960年代の少し裕福な人々の暮らしを細密に再現した映像はノスタルジックに浸らず、壊れていく母を見守る子供・孫たちといった普遍的なテーマを現代に再生させていた。


◆以下 結末に触れています◆


短いカットの積み重ねとテンポの速い会話は、どこか居心地が悪い。それは洪作が母と対峙した時に覚える、無条件に信頼したり愛おしんだりできない不信感と共通している。それでも母が行方不明になったと聞けば出港寸前の客船から飛び降りて探しに行くなど、根っから憎み切っていない。もはや完全に息子である自分を忘れている、そんな母だからこそ、幼き日にしてくれたであろうおんぶをする洪作。背中で感じた母の軽さはきっと彼の心にこびりついたわだかまりを洗い流したに違いない。


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