こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

タンタンと私

otello2011-12-22

タンタンと私 Tintin et Moi

ポイント ★★*
監督 アンダース・オステルガルド
出演 エルジェ(ジョルジュ・レミ)/ヌマ・サドゥール/マイケル・ファー/ハリー・トンプソン/アンディ・ウォーホル/ファニー・ロドウェル
ナンバー 298
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


未知の世界への冒険、それはすべての少年と少年だった大人たちの憧れ。アフリカ、中国、チベット、そして月。20世紀前半の欧州においてあらゆる世代の人々の心を虜にした活劇コミックのヒーローはいかにして生まれたか。映画は、原作者が生きた激動の時代を顧みたうえで、彼の自伝には書かれなかった生の声を検証し、人物像を掘り下げていく。直接彼を知る者、彼の作品の研究者、長時間にわたるインタビューを敢行したジャーナリスト。時に本人の肉声を交え彼の人生に深く踏み込んでいく過程は作者自身の創作の苦悩とシンクロし、ディテールの追及が作品に命を吹き込んでいることを物語る。


1971年、「タンタン」シリーズの作者・エルジェに一人の若者が独占インタビューに成功する。そのテープの発見を機に、エルジェのデビューから晩年までを再構築していく。


ナチスドイツに抗うほどの軍事力はなく、すんなり首都・ブリュッセルを明け渡すベルギーという小国の悲哀がエルジェの前半生に付きまとう。むしろエルジェの庇護者でもあったワレ神父がヒトラーやムソリーニといったファシストを支持し、エルジェも影響下にあったのが意外だ。無論、社会主義への嫌悪感と自国を戦場にしたくない思惑がベルギー人の中に働き、エルジェもまた占領下で糧を得るためにはポリシーを曲げざるを得なかったのだろう。一方で禍転じて、エルジェはタンタンを血沸き肉躍るアドベンチャーにいざなう。結果的に、物語から政治的メッセージをろ過したからこそ世界中の子供たちに受け入れられたのだ。スピルバーグも、ミステリーとアクションに満ちた題材だから映画化したに違いない。


◆以下 結末に触れています◆


戦後、エルジェはナチ協力者として仕事を干された時期もあったが、新聞連載が決まるなどほぼ順調に復帰する。しかし週2回の連載中、背景となる町や自然のリアリティに対するこだわりが彼を追い込む。もちろん簡単に取材旅行に出かけられる時代ではなかったのだろうが、資料だけで精細に描きこんでいたのには驚いた。現代だったら元ネタになった写真の著作権者が不快感を示すはずだが。。。


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