こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

J・エドガー 

otello2011-12-24

J・エドガー J.EDGAR

ポイント ★★★*
監督 クリント・イーストウッド
出演 レオナルド・ディカプリオ/ナオミ・ワッツ/ジョシュ・ルーカス/ジェフリー・ドノヴァン/ジュディ・デンチ
ナンバー 301
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています


“事実”は創作され“真実”は闇に葬り去られてしまった。誰よりも正義感が強く、己の信じる“正義”を追求してやまない男は、ついに大統領さえも陰で操るような権力を手に入れる。その代償は孤独。いや、2人の部下と母親しか信用しようとしなかった彼にとっては、孤独ですら立派な報酬に思えたに違いない。映画は、FBIの創設者であり、50年にわたって組織を支配し、政治家たちに恐れられたフーバー長官のあくなき出世欲と知られざる私生活に迫る。捏造と嘘、ハッタリと脅迫、一方で先進的な科学捜査の手法をいち早く導入してFBIの地位を高めようとする。社交的で自己宣伝に長ける反面女性との付き合いは苦手で極度のマザコン。そんな彼の極端な二面性は人間の複雑さを象徴していた。


司法長官から新しい捜査局を任されたエドガーは、忠誠心の篤い部下を集め共産主義者を検挙していく。そしてリンドバーグの息子誘拐事件をきっかけに、連邦政府に捜査局を州警察の上位組織として認めさせる。


膨大な情報の体系的な整理こそが現代の犯罪捜査の主流となっているプロファイリングの基礎になっていることを、図書館から一冊の本を探し出すシーンで語るあたり非常に洗練されている。だが、FBI飛躍の原点になったリンドバーグ事件では、莫大な費用と捜査局の威信をかけて容疑者逮捕にこぎつけるが、容疑者は最後まで無罪を主張する。結局、死刑は執行されるが、この事件はどうも冤罪のにおいが消えず、エドガーが証拠をでっちあげたのではと思わせるほど。事の真相について映画は結論をださないが、目的のためなら手段を選ばないエドガーの強引さをうかがわせるのには十分なエピソードだった。


◆以下 結末に触れています◆


プライベートでは腹心の部下・トルソンとは友情を越えた関係を結んでいるが、秘書のヘレンとはプロポーズを断られた後はきちんと一線を引き決して男女の仲にはならない。さらに彼に影響を与え続けた母親が死んだ時には彼女の服を身につけるなど偏愛を見せる。ただ、エドガーの自伝という設定なので、度々物語の時制が前後するうえ、どこまでが本当の出来事なのかわからない。それでもイーストウッドが作り上げたエドガーの世界は、ディテールへのこだわりが圧倒的なリアリティを生みだしていた。

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