こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アフロ田中

otello2012-01-14

アフロ田中

ポイント ★★★★
監督 松居大悟
出演 松田翔太/佐々木希/堤下敦/田中圭/遠藤要/駒木根隆介/原幹恵/美波/吹越満/皆川猿時/辺見えみり/リリー・フランキー
ナンバー 9
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

自由を求めて都会に出たのに、求めていた自由はどこにもない。だが、その現実を故郷に残った友人たちに打ち明ける勇気がない。そんな若者のやり場のない苦悩を、“カノジョを作る”という煩悩に置き換えて語るセンスが素晴らしい。映画は、人生を変えるためにアフロヘアにした主人公が、人生を深く考えずに過ごしたあげく壁にぶち当たり、もがく姿を描く。あきらめたわけではない、でもどうすればよいのか分からない。悶々としながら自問自答し葛藤と逡巡を繰り返す様子は彼のヘアスタイルのごとくコミカルにデフォルメされているが、感情は非常にリアルだ。

高校をノリで中退し上京した田中はトンネル掘削会社で働いているが、なかなか女性との出会いがない。ある日、高校の友人から結婚式の招待状が届き、“結婚式に彼女を連れてくる”約束を思い出す。早速、合コンに参加するが女心がわからない田中は浮まくる。

同時にアパートの隣室に引っ越してきた美女・加藤と知り合うが、初めから手の届かない存在と決めつけしまう。加藤は田中に好意を寄せているのに彼女の気持ちに気づいてやれず、ここでも噛みあわない。目標に向かって努力はするが方向性が間違っている田中が、一生懸命になるほど明確になっていく世間の常識とのズレがコミカルで洗練されていた。特に泥酔したOLの横で料理番組を見る田中が「腰を振る」「全部出ちゃった」といった言葉に反応しかけるシーン、その微妙な間は絶品で、思わずイスから落ちそうになった。

◆以下 結末に触れています◆

やがて、田中と加藤はデートする仲に発展するが、友人たちの誤解が原因で険悪になり、友情にもひびが入ってしまう。もう高校時代のように無邪気にバカをやっていられない、それでもいまだに夢が見つからない。そして何者にも束縛されない身分を得ても、己から働きかけないと何も変わらず、頑張ったからといって必ずしも結果に結びつく保証はないことを田中は知るのだ。自分探しという青春の通過儀礼のなか、生きていく厳しさを笑いのオブラートで包む松居大悟監督の手腕に脱帽した。

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