こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

英雄の証明

otello2012-02-01

英雄の証明 Coriolanus

オススメ度 ★★★
監督 レイフ・ファインズ
出演 レイフ・ファインズ/ジェラルド・バトラー/ブライアン・コックス/ヴァネッサ・レッドグレイヴ/ジェシカ・チャステイン
ナンバー 19
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

退かず媚びず省みず、闘士として生まれ勝利しか経験してこなかったゆえ、男は決して信念を曲げようとしない。その資質は軍人には美徳になるが、為政者には足を引っ張りかねない。映画は、馴染みの薄いシェークスピア戯曲を現代に置き換え、祖国を愛し血まみれになって戦った英雄がポピュリズムの罠に落ちてもがく姿を描き、強権的なリーダーが国を率いる危険と衆愚政治が陥る社会の停滞、何より人の心の移ろいやすさ・薄情さをあぶり出していく。己を貫くあまり、命がけで守った祖国に見捨てられた主人公の苦悩と絶望、復讐を通じて、人の胸に潜む嫉妬や猜疑心を掘り下げる。

食料を求める暴動を鎮圧し市民に憎まれていたローマの将軍・マーシアスだが、オーフィディアス軍の侵攻を撃退した功績を認められ、執政官になる。しかし、相変わらず民衆を見下した態度が改まらず、護民官らの陰謀で失脚、追放処分を受ける。

飛び交う銃弾と炸裂する爆弾、カメラは最前線の兵士たちの視線となり、緊張感と臨場感を再現する。自分は一つ間違えれば先にあるのは死という状況を切り抜けてきた、ところが民衆はTVの前で中継を見ているだけで銃を持とうともしない。義務を果たさず要求ばかりする民衆に対するマーシアスの気持ちがリアルなこの戦闘シーンに象徴されていた。そして、一度は指導者に祭り上げられるのにすぐに足元をすくわれ、「裏切り者」の罵声がマーシアスに襲い掛かるシーンに、単なる人気取りと堕した“民主主義”の恐ろしさが凝縮されていた。

◆以下 結末に触れています◆

マーシアスは宿敵・オーフィディアスの軍門に下り、先鋒をつとめ瞬く間にローマに進軍する。ここでもマーシアスはオーフィディアスを凌ぐ支持を得るが、その後独断でローマと和解したため今度はオーフィディアスから「裏切り者」の汚名を着せられる。どこまでも愚直を貫いたマーシアス、結局、権謀術数渦巻く人間社会で生き残るには柔軟な対応が迫られることをこの古典は教えてくれる。

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