こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

Bolero ボレロ

otello2012-02-02

Bolero ボレロ

オススメ度 ★★*
監督 田島基博
出演 辻岡正人/小嶺麗奈/本多章一/伊藤陽佑/小田あさ美
ナンバー 14
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夢と挫折、恋と破局、現実の壁にぶち当たりながらも走り続ける青春。ただなんとなく日常を過ごしていたミュージシャンの若者が、ひとりの女との出会いを機にもう一度人生にチャレンジする姿を追う過程はありふれた物語だが、モノクロ・サイレント、音楽のみで表現された登場人物の感情は、言葉という媒介がない分イマジネーションを刺激する。さらに大胆な省略と大げさにデフォルメされた演技、そしてカクカクとした動きを再現したコマ落としetc. 100年前の無声映画時代のコメディの手法を取り入れた映像は懐かしさと新鮮さが同居する。

バイトで生計を立てているギタリストのフトシは、恋人にオーディション出場を勧められるが断わったためにフラれる。彼女は他のバンドで加入しメジャーになり、フトシは失意のうちにギターを抱えて放浪する。ある日、聴覚障害のある・ユキに、フトシは「歌を聴かせてくれ」と頼まれる。

音が聞こえないのに、フトシがつま弾くメロディでリズムをとるユキ。耳ではなく心で感じているのだろう、幸せそうに体を左右にゆすって恍惚の表情を浮かべている。そのあたりの矛盾も、サイレントならではの余情がぼやかしてくれる。その上、フトシの弁当を作ったり、車いす生活を送るフトシの母の面倒を見たりと、ユキはフトシのようなプータローにはもったいないほどよくできた娘。ところが、フトシはミュージシャンとして売れだすとあっさり浮気するバカぶりを見せる。踏切を挟んだフトシとユキの間を電車が通過した後、ユキの傘だけが残されているシーンは、切なさと哀しみに満ちた愛の終わりを饒舌に語っていた。

◆以下 結末に触れています◆

紆余曲折の末、結局ふたりとも本当に大切なものは何かに気づく展開は予想通りだ。それでも映画からあふれ出すエネルギーの渦は最後まで衰えることなく、見事にエンタテインメントとして昇華されていた。

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