こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜

otello2012-02-03

麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜

オススメ度 ★★★*
監督 土井裕泰
出演 阿部寛/新垣結衣/溝端淳平/田中麗奈/松坂桃李/劇団ひとり/三浦貴大/中井貴一
ナンバー 26
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“死んでいく者のメッセージを受け取るのは生きている者の義務”。麒麟像の下で息絶えた男は、何を訴えたかったのか。それは、どんなにつらい現実が待ち受けていようとも己の言動には責任を持ち、目をそらしてはならないということ。映画は、殺された男と重傷を負った容疑者の、一見シンプルな構図の事件の陰に隠された驚くべき過去をあぶり出していく刑事の活躍と、真実に秘められた人の思いを解明していく姿を描く。嘘はばれなければ事実として認定されてしまうが、一度ついた嘘を守るために更なる秘密を抱え込まなければならない、そんな人間の苦悩の薄皮を一枚ずつはがしていく主人公の眼差しは、鋭さの中にもヒューマニズムが満ちている。

ナイフで胸を刺された男が日本橋で死亡、容疑者はトラックにはねられ意識不明になる。事件の担当になった加賀と松宮が被害者・青柳の身辺を洗っていると、青柳の会社が“労災隠し”の疑いがあり、容疑者がその犠牲になっていたとの訴えを得る。

生前の青柳の人となり、容疑者の行動の裏を取るうちに次々と意外な証言が集まり、捜査は予想もしない方向に舵を切る。青柳と彼の息子の確執、容疑者と恋人の境遇、さらに彼らの交友関係をひとつずつつぶしていく過程で、複雑に絡まった真相が徐々に顔を見せる展開は原作通り。だが、日本橋界隈の風情ある商店街や神社、彩り鮮やかな折り鶴など、小説に具体的なイメージを与え物語の理解を深めるのに成功している。

◆以下 結末に触れています◆

やがて容疑者だった青年は息絶えるが、加賀たちは事件の全貌を知り真犯人に辿り着く。そこで見つけたのは小さな悪意が産んだ大きな悲劇。一方、父が息子を思う気持ちと、息子が父に対して回復させた信頼、そして決して色あせていなかった恋人同士の絆も発見する。当人たちが気づいた時には本当に愛するべき者はもういないという皮肉な結末ながら、それでも人を信じてみようと思わせる作品だった。

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