こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

SHAME -シェイム-

otello2012-02-07

SHAME -シェイム-

ポイント ★★★*
監督 スティーヴ・マックィーン
出演 マイケル・ファスベンダー/キャリー・マリガン
ナンバー 28
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

地下鉄で目が合った女に妄想を膨らませ、娼婦を抱き、エロ動画を見て、所構わずオナニーにふける。仕事以外のオフの時間はすべてセックスに費やしているが、心は満たされない。何かに追い立てられて、義務感に駆られているかのような強迫観念でひたすら性行為を繰り返す主人公は、まるで射精をプログラムされた機械のよう。そんな男が妹の出現で人間的な感情を取り戻していく。だがそれは決して好ましいことではなく、彼を新たな苦悩に導くばかり。映画は、セックス依存症の兄と恋愛体質の妹がお互いの本心に気づきながらも素知らぬふりをし、自らを破滅に追い込んでいく過程を描く。触れだけで壊れそうな繊細な心理描写とクールな映像は、愛の果てにある虚無を皮膚感覚で表現している。

NYの高級アパートに暮らすブランドンのもとに歌手で妹のシシーが転がり込んでくる。彼女のライブで上司のデイヴィッドを紹介するとふたりは意気投合、ブランドンの部屋で抱き合う。

シシーの歌を聞いて涙を流すブランドンは、封印していたシシーへの思いを刺激される。シシーとデイヴィッドが同じベッドにいるのに耐えられなくなったブランドンが思わずジョギングに出るシーンに、彼が愛したただひとりの女がシシーだと暗示される。おそらくブランドンは性交の時も自慰の時もシシーを脳裏に浮かべていたはず、だからこそその場限りの無名の女が相手の時はイクのに、デートの手順を踏んだ職場の同僚とはその気になれない。彼が無軌道な背徳に走るのは、いちばんセックスしたい女とはできない運命の皮肉に対する復讐であり、禁忌を望む己を罰しているのだ。

◆以下 結末に触れています◆

そして、ブランドンはシシーの手首に残された多数の傷跡に、シシーもまた自分と同じ気持ちだったと確信を持つ。踏み越えてはいけない禁断の関係の一歩手前で踏みとどまった安堵と、今後も生ある限りはこの苦しみは続くという絶望、雨に打たれて泣き崩れるブランドンの姿は兄妹の人生と未来を象徴していた。

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