こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ピナ・バウシュ 夢の教室

otello2012-02-16

ピナ・バウシュ 夢の教室

ポイント ★★*
監督 アン・リンセル
出演 ピナ・バウシュ/ ベネディクト・ビリエ/ ジョセフィン=アン・エンディコット
ナンバー 22
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ステージに整列したダンサーたちは固い表情のまま足だけで踊り出す。「ハリー・ライム」のテーマに乗って、ひざを曲げ、つま先を伸ばし、脚を交差させ、まるであやとりのごとき複雑な動きをみせる。固定された上半身と躍動する下半身の、静と動の対比が刺激的で、さらにダンサーたちの挑むような視線が、非日常の扉を開けてみよと見る者をいざなう。この洗練の極みにあるオープニングが、ダンスという芸術の敷居の高さを一気に取り払ってくれる。映画は世界的舞踊家ピナ・バウシュの代表作「コンタクトホーフ」の、出演者顔合わせから舞台初日までの稽古風景を追う。

レッスンスタジオに集まった40人ほどのティーンエージャー、ほとんどはダンスも演劇も経験のない素人で志望の動機も様々。最初はダンスに二の足を踏んでいた彼らも、稽古が進むにつれ演じる楽しさに目覚めていく。やがて、ピナ・バウシュが稽古に加わり指導を始めると一気に場の緊張は高まる。

自信が持てないうえ羞恥心が勝る少女は何をやらせても「できない」と答える。男女のきわどい場面も少年が恥ずかしがってなかなか進まない。そんな彼らの手を取って舞台を走り回り一緒に大笑いし振り付けを叩き込む、彼らの母親の世代に属する年代のコーチは、繰り返し喜怒哀楽を解放し本当の自分をさらけ出せと要求する。そしていつの間にか、感情の発散に若者たちも快感を覚え、積極的に自己を表現していく姿勢を見せる。手足の動作が大きくなってキレが出て、踊り=生きる喜びであることを証明していくのだ。この、「若者たちが一皮むける瞬間」に、大いなる命の息吹を感じた。

◆以下 結末に触れています◆

「コンタクトホーフ」は男女の愛と欲望を描く舞踊らしいが、映画ではその説明は一切なく、まだ恋愛体験もあまりないであろうダンサーたちが男女の機微をどこまで理解できているのかいささか心もとない。また、肝心のピナ・バウシュ自身も映画には数シーンしか登場しない。それでも、若者たちの成長と人生を振り返る旅は未来への希望にあふれていた。

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