こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

寒冷前線コンダクター

otello2012-02-17

寒冷前線コンダクター

ポイント ★★*
監督 金田敬
出演 高崎翔太/新井裕介/岩田さゆり/林明寛/馬場良馬/NAOTO/木下ほうか/宮川一朗太/徳井優/国広富之
ナンバー 16
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

タクトと指先の流麗な動きは、凡庸な旋律からでも人間の秘めたる能力を引き出す。それはまさに神に選ばれし者のみがなせる業。一方、才能に恵まれなかった者は崇高なメロディを理解できても、決してその高みの自分が登れないのはわかっている。天才と、彼に嫉妬しつつ憧れている凡人、映画は「アマデウス」の構図を取りながらも、そこにひとりの女を介在させて歪んだ三角関係を構築する。音楽、愛、そしてその先にある人生を模索する過程で、喜怒哀楽を演奏に収斂させてこそ、真の芸術となりうるのだ。

音楽の代用教員・悠季がコンサートマスターをつとめる市民楽団の常任指揮者に、クラシック界のスター・圭が就任する。圭の指揮は厳しいが的確で楽団員たちはやる気を取り戻していくが、圭の高飛車な態度が悠季は気にいらない。ある日、悠季が思いを寄せている楽団員・奈津子が圭を誘ったことから亀裂は決定的になる。

悠季は最初から圭に反抗的だが、そのくせ音楽家としての“格”の違いに腰が引け、己の音楽を貫く自身がない。そんな悠季を奈津子は“ただ逃げているだけ”と非難する。本当は奈津子も悠季に告白してもらいたいのに、なかなか口に出さない悠季に苛立ちを募らせていたのだろう。同時に圭の気持ちも空転する。思わぬ人から思われて、思う人には思われずの図式はあまりにも類型的すぎるが、そこがかえって笑いを誘う。

◆以下 結末に触れています◆

ターゲットとなる客層への配慮なのか、複雑な悠季の心中をいちいちナレーションで説明するが、やはり言葉ではなく演技でみせてほしかった。だが、この物語の目指す真の地平は、音楽の可能性の追求ではなく、圭が悠季に話があると自室に無理矢理連れ込みんだ後の「タンホイザー」序曲に象徴される行為。行動で自らの意志を表現する、圭と悠季の間に芽生えた予想外の感情が新鮮で、思わず最後まで見いってしまった。

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