こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

otello2012-02-20

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い
EXTREMELY LOUD AND INCREDIBLY CLOSE

ポイント ★★*
監督 スティーヴン・ダルドリー
出演 トム・ハンクス/サンドラ・ブロック/トーマス・ホーン/マックス・フォン・シドー/ヴィオラ・デイヴィス/ジョン・グッドマン/ジェフリー・ライト
ナンバー 41
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

騒然とする人ごみ、消防車やパトカーのサイレン、大好きなパパをテロで亡くした少年はいまだにあの日のトラウマに苦しんでいる。ボクを残して死んだりはしない、理性では分かっていても感情は否定する姿が健気だ。そして偶然手にした遺品が自分へのメッセージだと思い込み、真意を読み取ろうとする。物語は人との距離感がつかめなずにいた主人公が、小さな旅の途中で人々の温かさに触れていくうちに心の澱を少しずつ浄化させていく過程を描く。悲しみを共有できる人はともに涙を流し、彼の境遇に胸を痛める人は受け入れ癒そうとする。親が子に伝えられなかった思い、それはいつの時代でも“お前は愛されている”ということなのだ。

911テロに犠牲になったパパのクローゼットの青い花瓶の中から金庫の鍵を見つけたオスカーは、その鍵に合う鍵穴を求めてNYのブラック姓の人々に会う計画を立て実行に移す。やがて向かいに住むおばあちゃんの部屋の間借人の老人が鍵穴探しを手伝い始める。

鍵がパパにつながる唯一の糸、でもとてつもなく複雑に絡まっていて簡単にはほぐれない。パパが意図したわけではないが、鍵は結果的にパパの意図通りの働きをする。それはオスカーに他人との関わりを体験させること、オスカーはどんな人にも大切な思いがあり、傷がつかないように守りながら生きている事実を学んでいく。特に、間借人との交流はオスカーに他者を慮る気持ちを芽生えさせていく。

◆以下 結末に触れています◆

ただ、間借人とパパの間に何があったのか何もほのめかされず、鍵の伝言も明かされぬまま。鍵の謎を解いた以上オスカーは答えに立ち会う義務があり、観客にも知る権利があるのに。さらに首をかしげるのは、オスカーの冒険はほとんどママが予め下準備をしていたと、ママがオスカーに話してしまう場面。独立心が旺盛になる年頃の少年が、自力でゴールにたどり着いた思っていたら、すべてママが陰で糸を引いていたと知ったら、かえって怒るか失望するはずだが。祖父と父と息子、男同士の絆に母親、つまり女が介入したせいで不可解な方向に舵が切られてしまったようだ。。。