こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

超能力者

otello2012-03-14

超能力者

オススメ度 ★★★
監督 キム・ミンソク
出演 カン・ドンウォン/コ・ス/ピョン・ヒボン/ チョン・ウンチュ
ナンバー 63
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

見つめるだけで他人の意思を奪い体を自由に操れる男と、その力が通じない青年。彼らの出会いは宿命、青年は男を執拗に追い、男は能力を駆使して逃げる。映画はそんな2人の因縁を寒色系のスタイリッシュな映像で再現する。そこに横たわるのは、怪物と呼ばれ親にすら殺されかけた男の孤独と世界に対する憎悪。一方の青年は本人すら気付かなかったパワーを男によって開発され、友人・知人の死によって運命に導かれていく。自分が世の中から阻害される原因となった超能力が憎い、だがそこに頼るほかない男の哀しみをカン・ドンウォンがクールに演じる。

交通事故で重傷を負ったギュナムは、回復後、小さな金融業者で働き始める。ある日、店にやってきた男が従業員を金縛りにしてカネを盗もうとするが、1人金縛りを解いたギュナムは男を捕まえようとする。

男はある意味全能の力を手にしているのに、小金を盗んでは人目を忍んで暮らしている。それは幼少時のトラウマゆえ自我を肯定できないから。ギュナムの登場は計算外ではあるが、己の存在を認めてくれる唯一の他人でもあるのだ。静かな生活を邪魔された男の、ギュナムへの憎しみは徐々にエスカレートしていくが、どこか彼のような人間によって救済されるのを待ち望んでいたかにも見える。他方、ギュナムは「最後の晩餐」に似た食事風景と死んでも復活する肉体に象徴される“救世主”の役割を担わされている。男はギュナムの前で無関係な人々を無慈悲に殺傷していくが、自身のせいで人が死ぬジレンマを乗り越えて男を倒そうとしたとき、ギュナムは「死ぬまで食べ続ける」人生を脱却して戦って勝ち取る生き方に変換する決意を固める。

◆以下 結末に触れています◆

ギュナムは多くの人々の思いを背負っているのに、人とのつながりを絶っている男は人を殺めるのみ。母親の涙にやっとこの世には愛という感情があることを知るが、もはや止められない。能力の使い方を教わらないまま持て余し、死でしか安らげない男の魂が底なしの切なさを誘った。

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