こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マンク〜破戒僧〜

otello2012-04-05

マンク〜破戒僧〜 LE MOINE

オススメ度 ★★*
監督 ドミニク・モル
出演 ヴァンサン・カッセル/デボラ・フランソワ/ジョセフィーヌ・ジャピ/セルジ・ロペス/カトリーヌ・ムシェ
ナンバー 83
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

自らに厳格な規律を課し、禁欲と節制を誓った男。しかし、胸の奥には“悪”の火種がくすぶり続け、やがて繰り返し見る夢が邪念になり、妄想が現実になっていく中で本性を露わにしていく。映画はキリスト教が絶大な権力を握っていた中世ヨーロッパ、1人の修道士の苦悩と葛藤を通じて“人間らしく生きる”とは何かを問う。愛に対する自然な欲求ですら“悪魔のなせる業”と決めつける倫理感、それを密かに逸脱する背徳の快感。そして一度知った甘美な蜜の味を忘れられず暴走する弱さと浅はかさ。世俗を離れ信仰に命を捧げたはずの魂が次第に堕落していく過程がリアルだ。

生後間もなく修道院に捨てられたアンブロシオは、巧みな説教で人気を得る聖職者に成長する。ある日、やけどを負った頭部を仮面で隠したバレリオが見習いとして修道院に入る。バレリオは実は不思議な治癒能力を持つ女で、アンブロシオに接近するのが目的だった。

哀しい表情の仮面、だがうがたれた穴でしかない目は心の底まで見透かす深淵を湛えている。美しいバレリオはムカデの毒に冒されたアンブロシオと関係を持つと、アンブロシオの理性は堰を切って崩壊していく。彼が獄死させた修道女の恨みとも重なり、憑かれたように欲望の虜になったアンブロシオはアントニエという少女への思いを抑えきれなくなる。もはや愛欲に狂ったケダモノ、キリスト像の目前でバレリオを抱こうとするアンブロシオの狂気は、肉欲は精神に勝ることを暗示している。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

姦淫だけでなく殺人まで犯したアンブロシオはバレリオの傀儡となり、更なる悲劇にいざなわれていく。後に少女と彼女の母との過去の因縁が明らかになった時、アンブロシオは己の罪深さに苛まれるのだが、その顔にはむしろ重荷から解放され死を悄然と受け入れる諦観がみなぎっていた。高潔な聖職者としてよりも堕落した罪人として息絶える、神の名の下で人間性を奪う宗教の偽善が彼の最期に象徴されていた。

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