ミッドナイト・イン・パリ MIDNIGHT IN PARIS
オススメ度 ★★★★
監督 ウディ・アレン
出演 オーウェン・ウィルソン/レイチェル・マクアダムス/マリオン・コティヤール/キャシー・ベイツ/マイケル・シーン/エイドリアン・ブロディ/カーラ・ブルーニ
ナンバー 82
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
男はロマンチスト、女はリアリスト。若き作家やアーティストたちが夢と情熱を夜な夜な語り合い、恋と芸術の花が咲き乱れた1920年代のパリ。男は兼々その時代に憧憬を抱いているが、米国流の物質文明に浸りきっている婚約者は彼の夢想など一顧だにしない。石造りの街並み、歴史的建造物、落ち着いたカフェ、曲がりくねった裏路地、そして篠つく雨ですら魅惑的な情景のひとつとなる古都、映画は人々を惹きつけてやまない当地の魅力をふんだんに引き出し、文化史に名を刻んだ有名人たちと主人公のエピソードを演出する。一方で、彼の気持ちを理解しない周囲の人々とのすれ違いがコミカルに味付けされていて、ファンタジーの中にも絶妙のユーモアを交えた小洒落た逸品に仕上がっている。
ハリウッドの売れっ子脚本家・ギルは恋人のイネズと婚前旅行で訪れたパリで道に迷う。深夜クラシックカーに乗せられてパーティ会場に紛れ込むと、フィッツジェラルドやヘミングウェイと知己を得る。
翌晩、執筆中の小説を持って同じ時間に待っているとスタインを紹介され、そこでピカソと彼の愛人・アドリアナと知り合う。文学論や絵画論を戦わせ人生に対して真剣に立ち向かう人々の姿に、自分が探し求めていた価値観を見出したギルはこの世界の虜になってしまう。苦手な小説よりカネを儲けられる映画の脚本を書けと言うイネズに距離を感じ、アートへの愛で共感するアドリアネに心奪われるギルの繊細な感情と対照的に、ピアス事件に象徴される不器用な行動とのギャップが笑いを誘う。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
だが、ギルにとっての“黄金時代”の住人であるアドリアナは19世紀末への憧れを隠しきれず、さらに世紀末の印象派画家たちはルネサンス期こそ活躍の場だったと思っている。そんな「昔はよかった」的な懐古趣味はいつの時代にも普遍的にあり、奇跡はギルだけに起きたのではないというどんでん返しはあまりにもアイロニカル。それでも、雨の中で一緒に濡れてくれる女がいる幸せ、運命の出会いは身近なところにあるとこの作品は教えてくれる。