こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

さあ帰ろう、ペダルをこいで

otello2012-04-10

さあ帰ろう、ペダルをこいで

オススメ度 ★★★*
監督 ステファン・コマンダレフ
出演 ミキ・マノイロヴィッチ/カルロ・リューベック/フリスト・ムタフチェフ/アナ・パパドプル/ドルカ・グリルシュ
ナンバー 85
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

自由に憧れながら当局の監視下に置かれ、バックギャモンの世界でだけ王でいられた男は、叶えられなかった己の夢を娘夫婦と孫に託し自らは獄につながれる。それでも誇り高い彼は決してくじけたりせず、むしろ絶望した孫に希望をもたらそうとする。人生はサイコロの目と同じ、どんな目が出るかは運と才覚次第と言い聞かせ、再び歩き出す勇気を与えるのだ。映画は苦難の半生を送ってきた主人公がすべてを失った孫と旅する途中で、あきらめずチャレンジすることの大切さを伝える姿を描く。民主化前の東欧とイタリアの難民キャンプ、国家の体制にかかわらず善人もいれば悪人もいる、そんな人間観察が隅々まで行き届いていて、重苦しい中にもユーモアを交えたエピソードの数々がいとおしくなる。

ドイツで両親とドライブ中に事故に遭った孫のサシコを見舞いにブルガリアから駆け付けたバイ・ダンは、記憶障害に陥っているサシコと自転車で故郷を目指す。サシコと両親は、かつてブルガリアから亡命し、25年ぶりに帰郷するところだった。

バイ・ダンが買ってきたのはタンデム自転車。孤独と不安にさいなまれるサシコに「二人は運命共同体」と安心させる。バイ・ダンはサシコの両親のせいでおそらく数年は服役していたはず、だがそれを恨むような素振りは一切見せず、孫の生活を心配し力を貸そうとする。バイ・ダンのいつも飄々とした装いと胸に秘めた芯の強さは男の中の男といった風情、人生を知り尽くしたような味わいのある表情が非常に魅力的だ。

◆以下 結末に触れています◆

いや、バイ・ダンにとってもサシコとの旅はわが身の再生の道のり。生き別れたままの娘夫婦を亡くした悲しみは年老いたバイ・ダンには相当応えたに違いない。それでもサシコに“いかに生きるべきか”を伝授して喪失感を乗り越えようとする。そして六のゾロ目に勝つ究極の目をサシコに振らせ、未来は己の手で切り開いていくものだと教える。カネや名誉とは縁がなくても、自分らしく生きる素晴らしさがスクリーンに輝いていた。

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