こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛の残像

otello2012-04-21

愛の残像 La frontiere de l'aube

オススメ度 ★★★
監督 フィリップ・ガレル
出演 ルイ・ガレル/ローラ・スメット
ナンバー 91
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ケータイはもとよりパソコンも使わない。もちろん主人公のカメラはフィルム式。さらに連絡を取るのに直接会いに行き、自分の思いは手紙で伝える。物語が21世紀を舞台にしていると分かるのはわずかに自動車のデザインとヒロインの墓碑銘のみ。コントラストの効いたモノクロフィルムと黒板に爪を立てるようなバイオリンとピアノの不協和音は、男女の不安定な心理を象徴し人間の脆さを暗示する。この半世紀前のフランス映画を思わせるディテールと徹底した表現主義は、狂おしいほどの情熱を真正面から受け止め映像化するだけでも一本の作品が成立する見本のようだ。

カメラマンのフランソワと女優のキャロルは撮影を機に恋に落ちるが、キャロルの夫が戻ってからぎくしゃくし始める。キャロルが精神病院に収容されたと聞かされたフランソワは、彼女を病院から連れ出そうとする。

キャロルを囲むパーティに呼ばれたフランソワがひとり退屈そうに黙り込んでいる。いや、むしろ他の男と親しげに話すキャロルに対して強烈な怒りすら覚えている。フランソワの気持ちを弄ぶキャロル、ところが一転してフランソワが去ると精神に異常をきたす。キャロルは全霊で愛していたが、フランソワがキャロルの狂気まで引き受ける覚悟はないのは、やる気のない脱走劇の直後に別の女を抱いていていたのでも明らか。フランソワの身勝手さがキャロルを絶望の淵に突き落とす。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

後に、エヴという女と付き合うフランソワは彼女に妊娠を告げられると堕ろせと言う。仕方なく結婚を了承するが、エヴの父を紹介されても終始浮かない顔。ここでも彼のジコチューぶりが浮き彫りにされるが、一方でキャロルの亡霊を見るようになる。だが無意識に潜む正直な願望と診断され、本当に愛していたのはキャロルだと気づくのだ。たとえそれが悪魔の囁きであっても、望まない結婚をするより本心に殉じる。相手の人生を背負い込むには重すぎるが、死を共有する勇気はある。その命の軽さもまた古典的で、苦悩の末ではなく簡単に自死を選ぶ姿がかえって新鮮だった。

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