こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

だれもがクジラを愛してる。

otello2012-05-03

だれもがクジラを愛してる。 Big Miracle

オススメ度 ★★★*
監督 ケン・クワビス
出演 ドリュー・バリモア/ジョン・クラシンスキー/ダーモット・マローニー/クリスティン・ベル/ヴィネッサ・ショウ/キャシー・ベイカー
ナンバー 108
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ジャーナリストもビジネスマンも軍人も起業家も政治家も、最初は皆欲得ずく。この事態にどのように関わっていけば最大の見返りが得られるかばかり考えている。だが、そんな動機でも必死で生きようとしている動物を前にすると、助けてあげたい思いが先に立ち、いつしか立場の違う者同士が協力し合っている。理性が欲に勝る瞬間、それがたとえわずかな時間であっても、多くの人々の願いがひとつになった時、大きな力が生まれるのだ。映画は、北極海の氷に閉じ込められたクジラ親子救出劇を舞台に、そこを中心に繰り広げられる様々な人間模様をスケッチする。美談で終わらせず、生臭い話きちんと描き込んでいるところに好感が持てる。

1988年のアラスカ、氷の裂け目から顔を出し息継ぎをする3頭のクジラが、そのままでは数日で死んでしまうというアダムのTVレポートが全米で放映され、たちまち世間の話題を独占する。連絡を受けたグリーンピースの活動家・レイチェルは巧みな交渉でクジラを外洋に出すための莫大な費用と人員を引き出していく。

世論を敵に回すか味方にするか、ほとんど強迫に近い手法で政治家や実業家に訴えかけ、現場を仕切るレイチェル。彼女の独善には閉口するが、クジラを救いたい気持ちは誰よりも強い。でも彼女でさえマスコミを通じてアピールし、環境保護への理解と援助を期待している。どれだけ手を貸したか、そのPR効果を現地に駆け付けた人間はカネに換算し、政治家は支持率を計算する。善意と損得勘定を同列に並べるが決して評論しないバランス感覚が心地よい。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

もちろんクジラ食文化を守ろうとする原住民の主張にも触れ、彼らの伝統はもはやTVで世界中の注目を浴びてしまったあとでは “野蛮な習慣”と非難されかねないことを、米国人側からの説得ではなく彼ら自身に判断させるあたりも合理的。そして、最後には米ソの首脳まで参加し、東西冷戦の終結を印象付ける一大イベントにまで祭り上げられる。たった3頭のクジラが世界を動かす、草の根のパワーが鮮やかに活写されていた。

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