こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ただ君だけ

otello2012-05-09

ただ君だけ

オススメ度 ★★★*
監督 ソン・イルゴン
出演 ソ・ジソブ/ハン・ヒョジュ/カン・シンイル/パク・チョルミン
ナンバー 104
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

気持ちを悟られまいと遠くで焦点を結ぶ、怒りに燃えた狂犬のように睨み付ける、愛を覚え少し和らぐ、生き残るための力を発散させる、そして胸にあふれる思いを漏らすまいと必死でこらえる。孤独と絶望を友にし、だれにも心を開かない男が、突然現れた盲目の女と交際するうちに人間らしい感情を甦らせていく過程を、彼に扮したソ・ジンブが瞳の輝きだけで見事に演じ分ける。映画は、夢をなくした主人公が恋人のためにもう一度人生に立ち向かう気力を取り戻していくという古典的な設定だが、大都会の片隅で小さな幸せを求める姿はいとおしい。さらに衝撃的な過去と悲劇的な別れ、凄惨でリアルな格闘マッチなどのシーンとエピソードを加えよりドラマチックな効果を上げている。

駐車場係のチョルミンは視覚障碍者のジョンファに話しかけられ戸惑うが、人懐こい性格のジョンファに打ち解けていく。やがてふたりは付き合いだし、ジョンファが仕事を辞めたのをきっかけに、チョルミンは総合格闘家を目指してトレーニングを再開する。

かつて有望なボクサーだったチョルミンはたちまち頭角を現し連戦連勝、一緒に暮らすふたりにもやっと希望の光が差し始めるが、ジョンファの目の状態が悪化、角膜移植手術の必要に迫られる。その費用を工面するためにチョルミンはアングラのデスマッチに参加する決意をする。このあたりで、チョルミンとジョンファの運命はすでに交差していた事実が明らかになるのだが、その責任を取るために身分を捨て命を賭ける覚悟を、チョルミンはジョンファには告げない。愛する者のためにすべてを投げ出す彼の勇気が、今や失われつつある“男気”を感じさせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ジョンファの手術は成功し視力が回復するが、犯罪に巻き込まれ重傷を負ったチョルミンは別人として入院している。ジョンファはそこにボランティアとして訪れるが、チョルミンの顔を知らない。ジョンファにとって自分は死んだことにしたほうがいいと考えるチョルミンは声をかけないが、一方で気付いてくれとも願っている、そんな彼の複雑で繊細な心理が深い共感を呼ぶ作品だった。

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